ファン・ジョンミン「主演になれないなら助演をすればいい…なぜ恐れるんでしょう?」

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これは間違いなく反則である。グラウンドの規則に反し、公正ではない行いだ。俳優ファン・ジョンミン(44)が父役を演じるのは反則の中の反則だ。少なくとも忠武路(チュンムロ:韓国の映画業界の代名詞)で“国民のお父さん”という肩書きを持ってかすかに耐えている俳優たちにとってはだ。

1950年代から現在に至るまでの時代を貫通して生きてきた父親を通じて、今日を生きる私たちの人生を再照明する物語を描いた映画「国際市場で逢いましょう」(監督:ユン・ジェギュン、制作:JKフィルム)。ファン・ジョンミンは興南(フンナム)撤収作戦当時、釜山(プサン)に避難し、家族のために強く生きていくコッブンの家族の家長ドクス役を演じた。126分の間、ファン・ジョンミンはどこにもいなかった。波乱に満ちた激動の歳月を生きてきた、老けて弱くなったドクスだけがそこに残っていた。

思う存分意欲を見せた。これまで炎のようなカリスマ性を披露し、男性ファンの憧れでもあったファン・ジョンミンは領域を広げ、“中年のアイドル”を目指しながら野心を見せつけた。隠していた鋭い足の爪をきちんと立て、観客の心を見事に刻んだ。特におかしくもない状況なのに、笑いが出る。特に泣くほどのシーンでもないのに、号泣してしまう。特殊メイクを超えて表出される演技の魂を見せてくれたにもかかわらず頭を下げるファン・ジョンミンに、できることならレッドカードを差し出したい。見ている者を親不孝者にしてしまう彼にレッドカードを……。

「分からないです。観客に『国際市場で逢いましょう』が伝わるのでしょうか?顔を合わせて『いまいち』とは言えないでしょう。みんないつの間にか、短所は言ってくれないんです。本当に必要な話なのに、甘いことだけを言ってくれるから、何が本当なのか分かりません。良い話は聞く瞬間が嬉しいですね。けれど、僕にとってそれは絶対に良いものではありません。鞭が必要ですから。片耳で聞き、片耳で流そうと努力します。冷たい心臓を持とうと努力しています」

以下はファン・ジョンミンとの一問一答。

ー「国際市場で逢いましょう」の出演を決めたきっかけは?

ファン・ジョンミン:昨年頭にミュージカルに出演していましたが、突然ユン・ジェギュン監督から電話がありました。お父さんに関する話だと言うので、その話だけを聞いてすぐに「やります」と答えました。これまで父親役を一度は是非やってみたいと思っていたんです。男たちにとってお父さんは常にぎこちない相手でもあるけれど、一方では心の片隅が染みるような存在でもあります。上手くやれるような気がしました。台本を読んで、かなり泣きました。そして、自分のフィルモグラフィーの中で一番成功するのではないかという考えも実はありました。ククク。

ーユン・ジェギュン監督は「国際市場で逢いましょう」のシナリオの段階からファン・ジョンミンを念頭に置いていたと言っていた。

ファン・ジョンミン:僕も聞いてみたいですね。ハハハ。あまり目立たない外見、近所のおじさんのような気さくなイメージのためではないでしょうか?ハハハ。

ーユン・ジェギュン監督は40代の俳優の中で唯一ラブストーリーを演じられる中年俳優であるからキャスティングしたと言っていた。

ファン・ジョンミン:ククク。僕がラブストーリーを演じられるって?とてもありがたいですね。これまでラブストーリーを演じてきたので、そうおっしゃったと思います。中年も、ラブストーリーを演じないと。常にラブストーリーを演じたいですし、最も上手く表現できる部分でもあります。恋こそ、全世界の誰もが疎通できるテーマでしょう?「新しき世界」(2013、監督:パク・フンジョン) のジョンチョンは現実の僕たちが経験することはできないキャラクターですが、ラブストーリーなら誰もが一度は経験があるのでよく知っているでしょう?なので、もっと年をとってもラブストーリーを演じたいです(笑)

ー俳優ファン・ジョンミンは「国際市場で逢いましょう」をどう見ているか。

ファン・ジョンミン:初めて「国際市場で逢いましょう」の完成版を見たのは、メディア試写会ででした。あの時は緊張して見て、VIP試写会の時にまた見たんですが、その時は少しリラックスして見たと思います。実話をもとにした作品ではないですが、僕たちが経験し、聞いてきた歴史の1ページをパノラマのように描き、良いと思いました。けれど、20代や10代の方がどう見るかは分かりません。僕には違和感がありませんでしたが、若い世代は違和感を感じるかもしれません。世の中が急変しているものですから。

ー「国際市場で逢いましょう」のリスクというのはなかったか。

ファン・ジョンミン:ドクスの一生を描いた作品ですが、ある意味では大きな事件だけを並べています。エキスだけを絞ったとも言えますが、それをつなげると線になるんです。ある観点では息をする時間もなく、クライマックスがずっと続いているような気がするかもしれません。観客の立場では、それがプレッシャーになるかもと思いました。ユン・ジェギュン監督にも「僕たちの映画がホラー映画のように感じられたらどうしよう」と話したことがあります。幸い、懸念していた部分がスムーズにつながっていたと思います。今思うと、逆に僕たちが知っている歴史を描いているので、自然な流れになったと思います。

ードクスを演じながら最も気をつけたところは?

ファン・ジョンミン:平凡な、言葉通り一般人のように見えることでした。ドクスは平凡な人なんです。食べていくために努力し、周りの環境によって変わっていく人、誰もが一度は経験したはずの、あるいは経験するはずのお父さんなんですから。もちろん僕は平凡に生きることはできない俳優で、芸能人なんですけれども。観客が平凡なドクスと芸能人のファン・ジョンミンの間の乖離を感じたらいけないと思いました。その環境に馴染んでいる自然体のドクスでいようと努力しました。

ー20代から70代まで幅広い年齢のドクスを演じたが、どのドクスが一番大変だったか。

ファン・ジョンミン:70代が最も難しかったです。20~40代は実際僕が経験しましたし、経験の途中でもありますので把握できるのですが、70代はまだ経験したことがありません。この年寄りが、なぜここまで偏屈で気難しい人になったのかという理由を探るべきでした。その結論があるからこそ、若いドクスともつながると思いました。研究の末、70代のドクスは素晴らしい精神力の持ち主だと思いました。戦争のような市場で人の視線を構わず場所をとって誰にも譲らず耐えたりしますから。普通の年寄りではありません。ふふふ。

ー70代のドクスを演じる時は、外見的なものもたくさん準備したと思うが。

ファン・ジョンミン:お年寄りの歩き方や仕草、背中が曲がる角度などに気を配りました。以前「ラ・マンチャの男」というミュージカルをやったことがありますが、その当時老いたドン・キホーテの姿を研究しました。自らパゴダ公園に行って、高齢者の方々をビデオカメラで撮って取材しました。どこが不便なのか、下着はどうやって着るのか、靴は何が楽なのか、食事は一日何回摂るのかなどを細かく調査し研究したのですが、その資料を「国際市場で逢いましょう」でまた使いました。とても役に立ちました。

ー70代のドクスのために特殊メイクもする必要があったが、演技をするにおいて大変ではなかったか?

ファン・ジョンミン:顔に接着剤を塗って、特殊メイクが密着するようにしていました。なので、不便ではなかったです。最初の頃だけ違和感がありましたが、馴染んだら不便は感じることなく自然に演じることができました。特殊メイクに関する説明を聞いた当初は7時間くらいかかるというので、「できない」と首を横に振っていました。そんな外見的な部分で力を消耗したくはないと思いました。制作陣にできるだけ特殊メイクを早くやってくれるチームを見つけてほしいとリクエストし、その結果、スウェーデンのチームが選ばれました。3時間でできるという話にすぐOKしました。そして、外国人なので愚痴をこぼすことができなくて。言葉が通じないものですから(笑)

ーキム・ユンジンと30代のドクスとしてラブストーリーを演じた。

ファン・ジョンミン:そのシーンがキム・ユンジンさんと共演する初めてのシーンでした。昨年9月にチェコで出会って初恋に落ちるシーンを演じましたが、カメラの前に立つとすごく違和感があって。撮影しながらも「なぜここまでぎこちないのだろう」と大変でした。なのに、スクリーンで見たら逆にそれがいいように感じられました。初恋を経験するドクスとよく合っていたと思います。

ーファン・ジョンミンも誰かの息子、お父さんではないか。

ファン・ジョンミン:父親に関する記憶はありません。ハハハ。男ってほとんどそうでしょう?父という存在は常に怖くて、大きな山みたいなイメージですから。今は父も年をとって、昔ほど怖くはありませんが、依然父はそんな存在なんです。僕も子供ができ、お父さんと呼ばれるようになって、父の心が少しずつ分かるようになりましたが、今も父との関係はぎこちなく、距離があります。

ーお父さんは「国際市場で逢いましょう」を見てどんな感想を伝えたか。

ファン・ジョンミン:父はまあ……ハハハ。やはり特に何も言いませんでした。それも、いつも母を通じて聞くのですが、いつもと同じく今回も特に何もありませんでした。慶尚道(キョンサンド)の生まれなので無口なんです。相変らずです(笑)

ーファン・ジョンミンもお父さんに似て無口になったり?

ファン・ジョンミン:似ていないわけがありませんよね。血は争えないです。けれど、父のその無口さは見習わないように努力しています。なので、今息子とは友達のように過ごそうとしています。

ー観客動員数1000万人の俳優という肩書きに欲はないか。

ファン・ジョンミン:そのような肩書きは、欲しいからって手に入るようなものではありません。ハハハ。まだ僕のものではないみたいです。特にこだわってはいません。映画の撮影が終わると、それで僕の役目も終わると思います。「さようなら」です。その後は観客の役目だと思います。楽しむべきですね。とても大事な問題です。観客動員数1000万人の俳優という肩書きは、もちろんもらえるなら嬉しいですが、特に欲はありません。

ー「ベテラン」(監督:リュ・スンリョン)、「谷城(コクソン)」(監督:ナ・ホンジン)、「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」(監督:イ・ソクフン)の撮影など、来年も忙しくなりそうだ。

ファン・ジョンミン:それなりに休みながら、無理のないようにしています。「谷城」は助演なのでは早く終わりましたし、「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」は撮影中です。選択と集中をしようとしているほうですが、やる時は後悔が残らないように最善を尽くそうとしています。「後悔するなら、しないほうがいい」が僕のポリシーです。ハハハ。なので、毎作品に後悔はありません。どうせやるんだから、全力で走るべきで、それでできなかったら仕方がないです。僕の器がそれだけだということです(笑)

ー今後の演技活動に関する恐れなどはないか。

ファン・ジョンミン:なぜ恐れるんでしょう?主演になれなければ助演をすればいいです。助演にもなれなければエキストラでもいいんです。恐れることはありません。俳優はその年齢に相応しく振舞うべきだと思います。良い俳優は目で語りますよね。どれだけ年をとっても、目だけは輝いているそんな俳優こそ本物の俳優です。僕もそんな俳優になりたいです。

記者 : チョ・ジヨン、写真 : チョ・ソンジン