「世界で一番いとしい君へ」イ・ジェヨン監督“天下のカン・ドンウォン&ソン・ヘギョ、普段の姿は…”

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写真=チョ・ソンジン記者、映画「世界で一番いとしい君へ」スチール
昨年、監督のいない映画が登場した。正確に言うと、監督が全くいないわけではなかった。遠隔で現場をコントロールし、俳優たちにディレクションをした監督が作った映画だった。「監督がおかしくなりました」というサブタイトルが響く瞬間だった。1年が過ぎた今、「本当に現場にいませんでしたか?うそ!」「もう~ 隠れて見守っていたんでしょう?」という質問が絶え間ないが、良く考えてみると、彼だからこそ出来る発想だった。才気煥発を越え、センセーショナルな作品で毎回観客をあっと驚かせるのがイ・ジェヨン(49)監督の特技であり、悪い(?)習慣であるためだ。

しかし、1年ぶりにスクリーンに登場したイ・ジェヨン監督は、これまで私たちが知っていたイ・ジェヨンではなかった。同名異人ではないかと疑うほど、これまで見せていたカラーと正反対のカラーでパンチをかます。痴情ラブストーリーでもなく、実験的でもない。しかも、おかしくもない。あまりにも平凡な、それこそ素朴な私たちの周りの物語で帰って来たのだ。イ・ジェヨンのマスクを被ったキム・ジェヨンではないのか、慎重に推測してみる。


キム・エラン作家の同名小説を原作にしたファミリー映画「世界で一番いとしい君へ」(制作:映画社ジップ)。17歳にして子どもを産んだ若い夫婦と、17歳を前に80歳の身体年齢を持つようになった世界で最も年老いた息子の物語を描いた作品だ。イ・ジェヨン監督が「裏話 監督が狂いました」以来1年ぶりにメガホンを取った新作で、「女優たち」(2009)、「多細胞少女」(2006)、「スキャンダル」(2003)、「純愛」(2000)、「情事」(1998)とはまったく異なる純度100%のヒューマンドラマだ。刺激的な要素は1グラムも添加されていない、淡白な無公害の映画だ。

彼は「イ・ジェヨンの映画じゃないようだ」という冗談に特有の笑みを浮かべながら「やっと自分の色を見つけたようだ」と答える。映画が公開される前まで、たくさん聞いた言葉の一つだそうだ。これまでの歳月をまったく公開していないが、これほどの熱い反応なら一度ぐらい振り返ってみなきゃと頭をかくイ・ジェヨン監督だ。

「告白するなら、実は関心の多いジャンルでした。僕が出来るだけ携わり、自分のスタイルが十分溶け込んでいると思っています。これまでの映画のように才気煥発な気質がある一方、『世界で一番いとしい君へ』のような感性的な気質もあります。昔は禁じられた愛、致命的な愛に関心がありましたが、そのような映画は家族と一緒に見るには少し気まずいじゃないですか(笑) 最近は家族と親戚みんなで見られる映画を作りたいと思うようになりました。両親、甥っ子、姪っ子を招待して見せたい気持ちが大きくなりました。皮肉なことに、最近は刺激的な強い映画ばかり作られている時代じゃないですか。それでなのか、無理やり作りたくはありませんでした。見ているといつの間にか胸がじんとなる映画を作りたかったです。そんな理由で『世界で一番いとしい君へ』は世代を合わせることのできる映画なのでいいと思います。恥ずかしさのない映画です」

自他共に認める韓国映画界最高のジェントルマンと呼ばれるほど大人しい演出家であるイ・ジェヨン監督の性向がそのまま感じられる「世界で一番いとしい君へ」。彼は今回の作品を「誰に見せてもいい映画」と評価した。温かい慰め、大切な価値を再び考えることが出来るそんな作品だったそうだ。今考えてみると、これこそがイ・ジェヨン監督の色ではないかと思う。

最近、韓国映画界ではベストセラーを原作にした映画がブームになっているが、ヒットに繋げることはラクダが針の穴を通過するほど難しいことだ。まず、原作がネタバレでもあり、読者が多いほど期待が高まるため、好評よりも酷評が注がれる。「世界で一番いとしい君へ」もリスクがなくはなかった。発行3ヶ月で14万部が販売された小説であるため、イ・ジェヨン監督のプレッシャーも倍であっただろう。幸い、公開後8点台の平均点をつけられ好評を博しているが、スクリーンに映すまでの、戦々恐々とした気持ちは隠せない。

「原作を読みました、本当に感動的で面白かったです。僕なりに共感できたと考え、映画化を決めました。従来のファンが、原作が持っていた美徳、完成、感動をそのままに満足することが出来るのかどうか悩みました。難しいことであるのは確かです。出来るだけ共感をポイントにしようとしました。『アルムの両親の本当の気持ちはどんなものだろうか?』『家族とは何なのか?』を考えながら。考えてみると16年間早老症を患っているアルムと彼の両親はすべてのことが日常ではなかったでしょう?だから、悲しみを出来るだけ排除しようとしました。目標のうち一つが、『悲しいことだけれど、たくましく、愉快に、毅然に描こう』でした。これぐらいだったら成功したと思うので、満足しています。ハハ」

イ・ジェヨン監督は「世界で一番いとしい君へ」について未熟児だと表現した。未熟児を産んで、インキュベーターに入れて朝晩かけて治療し、はらはらしながら見守っていると語った。初めてのジャンル。不安ではあったが、健康な子に育ったそうだ。過ぎてみると大衆映画がより難しいと頭を横に振る彼だ。次期作を聞こうとした瞬間、驚きの早さで「次期作はまだない。また大衆映画を作るかどうかは僕にも分からない」ときっぱりと話す。非常に苦労した作品だったようで、再び笑いが起きる。

「世界で一番いとしい君へ」は原作をベースにしたことで、前半は話題集めに成功したが、それよりもさらに有名になったのは韓国最高の美男美女スターであるカン・ドンウォンとソン・ヘギョを夫婦役でキャスティングしたことだ。二人のツーショットは過去にも未来にも生み出すことのできない、空前絶後の伝説のケミストリーだ。そんな二人が恋人でもなく、16歳にして子どもを産んだ夫婦だなんて。二度と見られない最強の組み合わせだ。

「ずっと関心のあった俳優たちであり、プライベートでも時々会っていた俳優なので、挑戦してみました。みんな考えはしますが、カン・ドンウォンとソン・ヘギョの組み合わせはなかなか思い浮かべられないじゃないですか。恐らく、自分の中の負けず嫌いが働き、刺激されたと思います。針で刺しても血一滴も流さなさそうな冷たさがある俳優じゃないですか。カン・ドンウォンという俳優が。実は、涙の出る悲しいヒューマンドキュメンタリーが見れないそうです。とても感性溢れる人でした。これまで貰ったシナリオの中で、デスがもっとも自分らしい姿であると、出演を決めました。内心“彼が僕の映画に?何ということだ!”と叫びました。ククッ。サバサバしていて、時には変わっています。泣き虫なところもなくはありません(笑) 華麗に見えますが、本当に素朴でしっかりとしている人がカン・ドンウォンです。ソン・ヘギョは昔から良く知っていましたが、強いキャラクターを演じて欲しいと思っていました。ミラがぴったりでした。まず、ソン・ヘギョが出演を決めてくれて僕はすごくありがたかったです。ハハ」

イ・ジェヨン監督は、自分よりカン・ドンウォン、ソン・ヘギョなど俳優たちの力が大きかった「世界で一番いとしい君へ」だから自信を持って話した。当為性を乗せて二人の俳優のおかげで観客が関心を寄せるのは、監督にとっては千軍万馬を得たようなことだろう。二人の俳優のアンサンブルこそ、観客が映画に集中して楽しさを感じられる一番良い方法だと説明した。

「神のカン・ドンウォンと女神のソン・ヘギョを壊すということに喜びを感じられるじゃないですか。ハハ。大衆はスターの華麗さに憧れますが、人間的な姿を見たとき、また新たな感情を感じるようになるじゃないですか。特に二人がそうです。大きく変わりません。僕はむしろ神秘的な印象がありませんでした(笑) 普段は無造作な感じです。ククッ」

記者 : チョ・ジヨン