「バトル・オーシャン/海上決戦」チェ・ミンシク“撮影現場、言葉通りみんな狂っていた”

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俳優チェ・ミンシク(52)に李舜臣(イ・スンシン)とはどんなに手を差し伸べても届かない蜃気楼のような存在だった。唯一頼れる存在だった「乱中日記」をほぼ暗記できるほど繰り返して読んでも、李舜臣という名の里程標はどんどん遠くなっていった。“凡人にはとても想像もできない”、そんな人物を演じるのは、チェ・ミンシクにとって挑戦であり、同時にジレンマであった。

「バトル・オーシャン/海上決戦」は日本軍の計略で王や朝廷から捨てられた李舜臣がバトル・オーシャン/海上決戦でたった12隻の船で330隻に達する日本水軍の船に勝利した鳴梁海戦を描いた映画だ。「神弓 KAMIYUMI」(2011)で747万人の観客を動員したキム・ハンミン監督が韓国人なら誰でも知っているストーリーと人物を豪気にスクリーンに呼び寄せた。誰でも知っているストーリーはスクリーンの中で壮大にそしてダイナミックに描かれ、観客に戦場の激しい孤独、熾烈さを感じさせる。これは李舜臣を演じたチェ・ミンシクの努力が加わって可能になったことだ。チェ・ミンシクは戦争を題材にしたアクション大作という肩書の中で、真剣さと本気を込めた演技で異論なしの完璧な演技を披露した。

チェ・ミンシクの名前が忠武路(チュンムロ:韓国の映画界の代名詞)で持つ意味や存在感は、わざわざ説明しなくてもいいほど圧倒的だ。1982年に劇団「根」の団員として演技を始めたチェ・ミンシクは、ドラマ「ソウルの月」や映画「ナンバー・スリー No.3」「クワイエット・ファミリー」「シュリ」「ハッピーエンド」「パイラン」「酔画仙」「オールド・ボーイ」、最近の作品である「悪いやつら」「新しき世界」まで幅広いジャンルや役で自身の名前に信頼という翼を付けた。

そんなチェ・ミンシクにとっても、聖雄李舜臣を演じるというのは実に凄まじい重圧感を与えることだった。むしろ李舜臣について大体の情報だけを知っていた時はここまで両肩が重くなることはなかった。「乱中日記」をボロボロになるまで読み、関連した史料を細かく調べていくほど「李舜臣は完璧だ」という文章だけが胸に深く刻まれていった。想像力が俳優の基本資産であると思っていた彼だが、完璧な人物李舜臣を想像力に依存して演じるというのは言葉通り“想像もできない”ことだった。

「正直、疑問はありました。ここまで完璧な人がいるだろうかと。一定の英雄化されたイメージなのではないかと思いました。しかし、李舜臣に関する史料を見れば見るほどその中には『完璧だ』という共通点があるんです。考えてみてください。王(宣祖(ソンジョ))に捨てられても、彼への絶対的な忠誠を続けます。人なら寂しい気持ちがするのも当然なのに、その寂しい気持ちはおさえ、命をかけて祖国と民に忠誠を続けるというのは、僕達のような凡人には想像もできないことなんです。李舜臣将軍は、天から突然降りてきたスーパーヒーローではなく、絶えない実践と修養を通じて生まれた人物です。なので偉大なんです。だから凄いんです」

チェ・ミンシクは約1時間のインタビューで何度も「これ(『バトル・オーシャン/海上決戦』)は本当に独特な経験だった」と力強く語った。彼が実在した人物を演じたのは、今回が初めてではない。すでに映画「酔画仙」(監督:イム・グォンテク、2002)で張承業(チャン・スンオプ)という人物を演じたことがあったが、その時とは感じも、レベルも違うという。50歳を超えたチェ・ミンシクだが、李舜臣という名前を発する際の震えには子どものような純粋さが漂っていた。髪を撫で上げ、ため息をつく瞬間には、完璧な偉人を演じた俳優の悩みが感じられた。

「これは本当に独特な経験でした。ドアの外で、将軍にたった10分だけ僕と話をしてほしいとお願いをしているのに、振り向きもしてくれない感じでした。将軍の肩を引っ張って『僕を見てください!』と言っても、最後まで答えを出してくれない感じとも言えましょうか。李舜臣将軍に実際に会えていないのは、僕だけでなく観客も同じです。けれど、将軍の完璧さが表現したいのに僕が僕自身を信じられなかったです。それはもう歯がゆくて物足りなさがあって苦しくて、後にはイライラまでしてきました。いくら『乱中日記』を繰り返して読んでも、将軍のことを知れば知るほどとりあえず欲張って、雲を掴むようなプレッシャーだけが大きくなりました。僕自身が僕をいじめる一種の強迫でした、強迫。絶対に触れられない将軍の完璧さ。はぁ…ジレンマでした。このような経験は初めてでした」

チェ・ミンシクは撮影現場を涙と汗、熱気で埋め尽くした多くの助演、脇役を演じた俳優たちの闘魂がなかったら「バトル・オーシャン/海上決戦」は不可能であったと伝えた。チェ・ミンシクの言葉通り、台詞なしでも黙々と櫓をこぎ、熾烈に刀を振るう俳優たちがいなかったら、「バトル・オーシャン/海上決戦」の感動がここまで重く伝わることはなかっただろう。

「ここまで歯がゆく辛い状況の中でも僕が慰められ、演技を続けることができたのは、弓を放ち、大砲を撃ち、転んだ仲間たちのおかげでした。後輩たちなんですけれども、本当に偉いです。僕は恥ずかしいので俳優として揺れる姿を後輩たちに見せたらダメなんですね。気付かれないようにとても彼らに頼っていました(笑) その子たちが本当の鳴梁海戦を行ったと言っても過言ではありません。いつの間にか、みんな夢中になっていました。その闘志と本気はハリウッドシステムでは絶対に追いつけないものです。『バトル・オーシャン/海上決戦』の撮影現場は言葉通りみんな狂っていました」

「バトル・オーシャン/海上決戦」は2011年に全国747万人の観客を動員した映画「神弓 KAMIYUMI」のキム・ハンミン監督がメガホンを取った。リュ・スンリョンが卓越した知略の持ち主である日本水軍の来島通総(くるしまみちふさ)役を、チョ・ジヌンが日本水軍の将軍脇坂安治(わきざかやすはる)役を演じた。他にもキム・ミョンゴン、チン・グ、イ・ジョンヒョン、クォン・ユル、ノ・ミヌ、キム・テフン、大谷亮平、パク・ボゴムが加わった。韓国で7月30日に公開される。

記者 : キム・スジョン、写真 : キム・ジェチャン