映画「私の少女」チョン・ジュリ監督“ペ・ドゥナ&キム・セロンの好演は本当に有り難かったです”

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チョン・ジュリ監督に初めて会ったのは今月18日(現地時間)、カンヌのビーチにある「Vegaluna」で開かれた映画振興委員会主催の韓国映画の夜のイベントだった。当日深夜に到着したチョン・ジュリ監督は時差のため朦朧としており、相次ぐイベントに慌ただしい様子だった。きょとんとした目で「海外は初めてです」と言う彼女の姿が今でも目に浮かぶ。

第67回カンヌ国際映画祭の“ある視点”部門に招待された映画「私の少女」(監督:チョン・ジュリ、制作:ファインハウスフィルム)。公式セクションの一部門である“ある視点”は、オリジナリティのあふれる作品を選出するセクションだ。チョン・ジュリ監督は初めての長編デビュー作にもかかわらず、堂々とカンヌに選ばれた。“快挙”とはこのような時に使う言葉なのではないだろうか。

惜しくも授賞は逃したが、韓国の女性監督の青写真を描き、熱い好評を得た。繊細な感性で残酷ながらも美しい物語を描いたという「私の少女」は、カンヌでかなりの成果を得た。

「韓国の小さな町で起こる地域的な物語なのに、好評を受けたというので驚きました。実は共感してもらえるかどうか不安でした。今でも信じられません(笑)」

―カンヌに来た感想は?

チョン・ジュリ:まだあまり日が経っていませんが、カンヌで10日間くらい過ごしたような気がします。イベントが本当に多かったです(笑) あと偶然、ダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督)を見ました。もちろん、直接お会いして話をしたわけではなく、遠くから見ただけですが(笑) それでも嬉しかったです。

―「私の少女」を見た海外の観客たちの反応は?

チョン・ジュリ:海外の観客たちの反応までは分かりませんが、カンヌ国際映画祭のクリスティアン・ジョン副執行委員長は“ストロング(Strong)な映画”だと言ってくださいました。

―同性愛コードがある作品だが?

チョン・ジュリ:シナリオの初期段階では猫の飼い主から始まり、猫のような子としてドヒ(キム・セロン)を思い浮かべました。そして似たような人物たちが全く異なる状況に置かれて出会う物語にしたいと考えました。非常に孤独な人物がいいと思い、性的マイノリティたちの運命を思い浮かべ、それぞれ異なる孤独から出会う二人の女性の物語にしたいと思いました。

―猫のようなドヒとは、どんな子なのか?

チョン・ジュリ:猫を一匹飼っている飼い主がある日、違うネコを連れてきます。ところが、飼い主は新しく連れてきた猫だけを可愛がるのです。以前からいた猫がそれを見て、毎朝死んだネズミを飼い主の靴の中に入れるようになります。飼い主はネコがそんな行動をするのは嫉妬からだと思い叱りますが、翌朝猫は皮を剥いだ真っ赤なネズミを飼い主の靴の中に入れました。実は猫は飼い主を愛する気持ちからエサを入れただけなのです。私たちが思うような嫉妬ではなく、飼い主に対する愛なのです。ドヒはそんな子です。

―ドヒとヨンナム(ペ・ドゥナ)が感情を交わすトイレシーンが二回出てくる。

チョン・ジュリ:二人の感情の交流はヨンナムが車に乗っている時、ドヒに水を掛けたことから始まります。二人がヨンナムの家で更に距離が縮まるようにしました。中に入り、空間の一番奥にある浴室まで侵入します。浴室は感情的な交流をする上で最もプライベートな場所じゃないですか。もしかしたら、本当の二人が出会う場所だとも言えます。別れもまた、その場所にしたいと思いました。出会いと別れを決心する場所がトイレなのです。

―ドヒは生まれついての悪なのか?それとも後天的な悪なのか?

チョン・ジュリ:私たちの映画でドヒが悪に見えましたか?(笑) ドヒはとても純粋な子です。その純粋さが両面的だと思います。とてもあどけないですが、同時に盲目的な一面も持っています。それがドヒなのです。一つお願いしたいことは、『私の少女』で絶対悪はヨンハ(ソン・セビョク)が代弁していますが、もしヨンナムがドヒに出会わなければ、ヨンハはドヒの未来になっていたでしょう。もしくは、ジョムスン(キム・ジング)になっていたかもしれません。

―エンディングについてどう説明するのか?

チョン・ジュリ:エンディングは『私の少女』の始まりであり、ドヒの最大の行動であり選択です。ヨンナムにとって救いになると思います。ドヒが選択できる最善かつ最悪の選択で、必然的な選択でした。

―ヨンナムが初めて村に行くシーンも印象的だ。大雨が降っていたのに急に止んだが?

チョン・ジュリ:雨の中を走っているヨンナムの姿は、昔ヨンナムが置かれていた運命を表しています。村に入った瞬間に雨が止むことで、また別の人生を掴めるということを表現しようとしました。期待も不安もある状況です。最終的に主人公に今までとは他の選択が出来る可能性を提示しました。

―ドヒはヨンナムを最後まで止めなかった。

チョン・ジュリ:ドヒはこの映画でヨンナムのことを一番よく知っている人物です。ヨンナムの元恋人が出てきますが、ドヒほどよくは知りません。ドヒは知っているのです。止めても無駄だということを。ヨンナムが自分を訪ねて来た時、既に覚悟を決めて来たのだと思ったのです。よく見てみると、ドヒはヨンナムのために警察署で再陳述しますが、その後は一言も話しません。恐らく、ドヒの心境的にそうせざるを得なかったのではないでしょうか?

―「私の少女」は予算の大きい商業映画ではない。

チョン・ジュリ:元々私は韓国芸術総合学校映像院出身ですが、在学当時映像院とCJの産業協力プロジェクトがありました。映像院出身と在学生、卒業生を対象にした公募展がありましたが、私の作品はそこで選ばれた5つの作品のうちの一つでした。開発を進めながら最終的に選ばれたシナリオが制作に入るものでしたが、最終段階で落ちてしまいました(笑) 当時、イ・チャンドン監督にお会いしましたが、『私の少女』を見てもったいないと思われたのか、“作ろう”と提案してくださり制作することになりました。やはり大きな話題となる商業映画ではありませんから。出来る限りキャスティングに比重を置きました。そして何故か、韓国の俳優を網羅して最も満足のいくキャスティングになるのではないかという得体の知れない期待がありました(笑)

―その願い通り、優先順位1位のキャスティングに成功したのか?

チョン・ジュリ:うーん……そうですね(笑) 実は、キム・セロンには最初断られました。キム・セロンはシナリオを読むことにとても徹底しており、感情的に大変そうだと思って最初は断ったそうです。でも時間が経ってもキム・セロンほど上手く演じられる子はいないと思いました。キム・セロンももう一度考えて『私の少女』に出演してくれることになりました(笑)

―ヨンナムは毎晩お酒を飲むが?

チョン・ジュリ:アルコール中毒かも知れません。色々な状況がヨンナムを眠らせてくれませんから。ミネラルウォーターのボトルに焼酎を入れるのは全て私のアイディアです。何故かヨンナムがそうしたそうに見えたのです。実際私はお酒が大好きでよく飲んでいます。だからと言ってヨンナムのように飲んだりはしませんが(笑)

―ペ・ドゥナ、キム・セロンなどが好演したが、監督として俳優たちの演技はどうだったのか?

チョン・ジュリ:本当に有り難かったです。デビューしたての新人監督の私をよく知らない状況で、シナリオだけを見て決めてくれた彼らに感謝しています。彼らは私を直感的に理解したようです。特別な指示が要らないほど上手でした。

―俳優たちの演技のおかげで更に良くなったシーンはあるのか?

チョン・ジュリ:シナリオを書きながら想像していたセリフと声のイメージがありましたが、俳優たちと初めて読み合わせをした時“ぴったりだ”と思いました。ヨンナムの孤独な姿や取調べを受けるシーンを見て、モニターの外で涙が止まりませんでした。ヨンナムの孤独を“元々この俳優が持っていたのか?”と思えるほど上手く表現してくれたのです。驚きました。もちろん、キム・セロンは言うまでもありません。

―今後もこのような映画を作るのか?

チョン・ジュリ:“ある視点”部門に招待された韓国映画は商業的に素晴らしい映画だと思います。ですが、私はこれから映画を作る上で“商業だ、非商業だ”と区別はしないと思います。『私の少女』は観客が楽しんで見ることのできる余地が十分にあり、それを考慮して作りました。私は商業映画を目指すタイプではありませんが、より多くの方に見てもらえる映画を作りたいと思います(笑)

記者 : チョ・ジヨン、写真 : チョ・ジヨン