Vol.2 ― 「ゴシップサイト 危険な噂」イ・チェウン“批判に傷付かないタイプではない、悪役を演じるのが怖い”

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初めてスクリーンで出会った彼女はとても不思議な雰囲気を漂わせていた。冷たそうに見えて、また温かくも見える。その後、舞台挨拶で再会した彼女は毅然としていた。綺羅星のごとく並んだ大先輩の前でも堂々としている彼女。3度目に会った時はそろそろ彼女の正体が気になり始めた。不思議なことに何度もつい目で追ってしまうようになる彼女は、もしかして“星から来たミス・キム”ではないだろうか?

犯罪アクション映画「チラシ:危険な噂」(以下「ゴシップサイト 危険な噂」、監督:キム・グァンシク、制作:映画社スバク)でミス・キム役を演じた女優イ・チェウン(33歳)。新人と言うには少し躊躇われる年齢と出演歴を持っているが、役の重さから見ると「ゴシップサイト 危険な噂」がデビュー作と言っても過言ではないため、堂々と新人リストにその名を連ねても良さそうだ。

劇中で、記者を夢見ていたが、私設情報誌会社に就職することになったミス・キムは、とんでもないスキャンダルを接しても全く動揺することなくクールに文字を打ち込む。ペクムン(コ・チャンソク)の一方的な求愛にもブレない姿勢を保つクールな姿が印象的なミス・キムを、まるで自身の分身であるかのようにリアルに演じきった。

イ・チェウンは「ゴシップサイト 危険な噂」について“恩人”だと語った。もう少し詳しく話すと、キム・グァンシク監督の力添えが大きかったという。新人なら誰もが口にするような感謝の挨拶だが、イ・チェウンは少し違う意味から感謝の気持ちを伝えていた。彼女にはもっと大きく、心に響くものがあった。

「キム・グァンシク監督とは、『私のチンピラな彼氏』(2010年)で初めて出会いました。多分、その時の縁でミス・キムに出会うことができたんだと思います。キム・グァンシク監督が私に『ゴシップサイト 危険な噂』のシナリオを渡し、『女の子の役を一度やってみては』と話したのが始まりでした。シナリオに登場する女の子の役は全てチェックしました。ミジン役は年齢が合わないからパス、ミス・キムは出番が多いのでパス……。特に私が演じらそうな役はありませんでした。最初は『なぜ私にこのシナリオを渡したのかな?』と思いました。その後、キム・グァンシク監督が『ミス・キム役はどう?』と聞いてきました。キャラクターの雰囲気を聞いているのかなと思って『面白かったです』と答えたのですが、それがキャスティングの質問だったんです(笑) 信じられませんでした」

今まで脇役だけを数えられないほど演じてきたため、「ゴシップサイト 危険な噂」でも誰かの秘書や誰かの友達になるだろうと思っていたという。助演だとは想像もしていなかったイ・チェウンに、重みのあるミス・キム役が与えられた。それが信じられなかった彼女はキャスティングが決まった後も安心できなかったという。十分取り消しになる可能性もあったためだ。

「監督が気に入っても、投資家や主演俳優たちの契約条件の事情で役が変わることがあるんです。特に、私は知名度の低い新人ですので、そのようなケースは何度も経験してきました。『ゴシップサイト 危険な噂』もそうなる可能性があると思いましたが、いざキム・グァンシク監督は全く変更する気はなかったみたいです。私にとっては恩人ですね。商業映画にどう挑戦すればいいのかいつも宿題のように思っていましたが、『ゴシップサイト 危険な噂』のおかげで安心して足を踏み入れることができました(笑) さらにヒットの兆しも見えているので、色々な面で本当に特別な作品なんです」

キム・グァンシク監督にとってイ・チェウンという女優はかなり信頼することのできる女優の一人である。独立映画で実力を培ってきただけに不安はなく、新人ではあるが信じて任せられる女優だった。実際、キム・グァンシク監督は「イ・チェウンという女優を人々にたくさん見せてあげたい」と伝え、並々ならぬ愛情を見せていた。キム・グァンシク監督の映画で熱心に演技を披露するしかない理由だ。

独立映画では主演を演じて劇をリードしたが、商業映画に移ってから思うように活躍することができなかったイ・チェウンは、久しぶりの大役に悩んだ。主人公を輝かせたいと思い、初撮影の時はできるだけ自分の感情を抑えて演技をしたという。だが、助演だからと言ってただ背景に留まっているのではなく、ある程度自分の色を披露する必要があった。

「本格的な助演の演技は初めてだったので、よく分からない部分があったと思います。初撮影の時は存在感を出さないよう、水が流れるような感じで演じようと思いました。普段から私は強烈に目立つよりも、映画の中に溶け込むようなタイプなので、いつも通りに演技をしました(笑) 当時、撮影監督が『オッキの映画』(2010年、監督:ホン・サンス)で一緒に仕事をしたことのある方でしたが、その方に撮影後に呼ばれました。撮影監督は、『元々演じていたやり方をここでもやってしまうと、完全に君が見えなくなる。もう少し表現をして、大げさな演技が必要な場面では確実に見せないと』とコツを教えて下さいました。これはキム・グァンシク監督も知らない話なんです。撮影監督と秘密の会議をたくさんしました(笑)」

そこまで努力して演じた役への満足度はどのようなものだろうか。イ・チェウンは「全く満足していない」と歯痒い気持ちを表した。撮影が終わり、声の収録をする時には嵐のように後悔が迫ってきたという。作品に迷惑をかけてしまったような気がして自信は消え去り、しばらくの間抜け出すことができずに苦しんだという。試写会の時も後悔に満ちた目で作品を見守った。「ゴシップサイト 危険な噂」で相手役だったコ・チャンソク先輩にこのような気持ちを打ち明けると、「もちろん、後悔して当然でしょう」という意味深な言葉で慰めてくれたという。初めての作品にはそのような後悔や歯痒さを感じて当たり前だという愛情のこもったアドバイスだった。

映画のテーマである“証券街チラシ”(ゴシップ性の高い情報誌)、いわゆるチラシと呼ばれるものについて話を聞いてみた。実際にチラシを受け取ったことがあるというイ・チェウンは、女優として怖い部分もあると語った。親しい俳優たちの情報がチラシに出回った時には恐ろしさすら感じるという。

「実際にチラシを読んでみると、時々良い話もあるんです。『俳優○○は撮影現場で礼儀正しい』『周りの人に親切な俳優』などの褒め言葉もあるのですが、そのようなものに人々は関心がありません。もっと刺激的な部分に関心があるんですね。友人たちがチラシに取り上げられたことがありますが、事実ではなく、ここまで誤解されることもあるんだと思って怖かったです。ただ友達の傍で黙々と応援してあげるしかないですね。立ち向かって反論をしたからといって、噂が静まるわけもありませんし……結局、時間が薬になると思います」

「もし、自分が取り上げられたら?」という質問に、イ・チェウンは「想像しただけでも怖い」と答えた。自らを傷付くことのない剛鉄のような心の持ち主だと思っていたという彼女も危険な噂に耐える自信はないという。

「チラシではないのですが、似たような経験として以前酷く悪質なコメントに悩まされたことがあるんです。『29秒映画祭(29 Second World Film Festival)』に私が出演した『韓国で親不孝者として生きること』(2013年、監督:ソン・ウォンヨン)という作品が出品されたことがあります。宅急便の仕事をする父親を会社で遭遇した娘が知らないふりをするという内容ですが、この作品がSNSでとても話題になりました。人々の悪質なコメントがもうすごいものでした(笑) 最初は『私の演技ってそんなにリアルだったのかな?』と思って嬉しかったのですが、どんどん批判が酷くなって傷付きました。演技なのに、まるで本当に私が親不孝者のようになっていたんです(笑) その時に気付きました。私は批判に傷付かないタイプではないんだと。それ以来、悪役が演じられないんです。パク・ソンウン兄さんはどうやってそういう悪役の演技ができるのでしょうか、本当にすごいです」

記者 : チョ・ジヨン、写真 : イ・ソンファ