「サスペクト」パク・ヒスン“初日からスカイダイビング…死んだと思った”

TVREPORT |

「ウォン・シンヨン監督、歯を食いしばったと思う」

淡々としていて冷たく見えるが、大きな声で笑うときは言葉の通り、相手を武装解除させる。真剣な答えが続いても、冗談を飛ばして一瞬にして状況を一転させる。俳優パク・ヒスン(43歳)のことだ。

スクリーンの中でパク・ヒスンはいつも予期せぬ瞬間、観客に深い感動、または豪快な笑いを届けてきた。鋭い眼差し、固く閉ざした唇とハスキーボイスは彼にタフな魅力を与えた。しかし、パク・ヒスンが普通のタフな俳優とは少し違う点があるとしたら、どこか心を動かす人間味があるというところ、そしてふと投げかける言葉からも情が感じられるというところだ。これは俳優として大きな才能であり、祝福だ。

映画「サスペクト 哀しき容疑者」(監督:ウォン・シンヨン、制作:Green Fish)で彼が演じたミン・セフン大佐も同様だ。一匹の猟犬のようにチ・ドンチョル(コン・ユ)を追撃するが、ただ荒々しいだけのキャラクターではない。パク・ヒスンは観客にミン・セフンの行動の裏側には私たちの知らない人間味と何か事情があるのではないかという期待感を与え、キャラクターに溶け込んでいく。

「僕にオファーが来る作品は大体悪役です。ぱっと見ただけで、僕が作品の中のイメージだけで消耗されていくキャラクターというか。そういう時は少し疲れます。僕自身で考えられなかったものを引き出してくれる作品や監督と出会ったとき、それ以上に幸せなものはありません。そういった意味でウォン・シンヨン監督の前作『セブンデイズ』(2007年)は僕にとって大事な作品であり、感謝している映画です。人間パク・ヒスン、俳優パク・ヒスンの新たな顔を引き出してくれるときに感じる喜びというか。『サスペクト 哀しき容疑者』も同じでした。正直、当分の間は『サスペクト 哀しき容疑者』の中で生きたいという思いもあります」

劇中でミン・セフン大佐は防諜分野の最高のベテランであり、空軍特殊部隊CCT(Combat Control Team)の訓練教官だ。かつて、チ・ドンチョルとの事件のために訓練教官に降任されたが、二人の間には憐憫を呼び起こすドラマが隠されていた。そのドラマが繰り広げられる船舶シーンは、映画の後半のミン・セフンの特定の行動に説得力を吹き込む。

「船舶シーンは編集してみると、本当に大事なシーンになっていました。チ・ドンチョルより強く演技しながらも、感情を逃してはならないと思いました。それでこそ、狂った猟犬のようにチ・ドンチョルを追いかけることに対する妥当性が与えられると思いました。面白いのがあのシーンを撮るとき、映画「バトル・オーシャン/海上決戦」の撮影チームの船がカメラに映ってしまい、後でCGで消しました(笑)」

「サスペクト 哀しき容疑者」は韓国のアクション映画史上、前例がないほどのカーチェイスシーンと漢江(ハンガン)落下、ロッククライミング、スカイダイビングなど、陸海空と海外ロケを行き来するリアルアクションで観客のアドレナリンを放出させる。パク・ヒスンが「サスペクト 哀しき容疑者」のシナリオを見て、真っ先に口にした言葉は「これをどうやって撮るんだ?」だったそうだ。

「ウォン・シンヨン監督が6~7年間、力を入れてきた作品(『ロボットテコンV』)がダメになって苦しんでいました。監督とは『セブンデイズ』以降、よく飲みに行ったり、仲の良い友人になりましたが、僕に『サスペクト 哀しき容疑者』のシナリオを渡しながら、『君にやって欲しい』と言われました。アクションのト書きを見て一体これをどうやって撮影しようというのか不思議でした。従来の韓国映画でこんなシナリオ、ほとんどなかったじゃないですか。ただ、ウォン・シンヨン監督だったら出来そうだという信頼がありました」

彼はインタビューの間、「アクションはコン・ユがすべてやった」と謙遜したが、実際に彼が「サスペクト 哀しき容疑者」で見せたアクション演技も引けを取らなかった。映画の前半を飾る落下シーンからスクリーンを圧倒し、映画の間、チ・ドンチョル、国家情報院のキム・ソッホ室長(チョ・ソンハ)と互角にやり合いながらアクションのシークエンス(物語上の繋がりがある一連の断片)を作っていく。荒くも鋭い、男の香りが色濃く感じられるパク・ヒスンのアクション演技はコン・ユのアクションとはまた違った魅力を放つ。

「最初の撮影シーンがスカイダイビングのシーンでした。後になって分かったことですが、ウォン・シンヨン監督が各俳優たちの一番大変で、強烈なシーンをその俳優の最初のスケジュールに組み込んでいました。落下シーンはある程度演技が板についてから撮るものだと思っていたら、初日に撮ったのです。コン・ユも絶壁でのシーンを初日に撮ったそうです。ウォン・シンヨン監督がついに牙を剥いたんだ、もう死んだと思いました(笑) 『セブンデイズ』の時は『やらなくていいよ、代役を使えばいい』と言っていた人が、『本当に危ないから、やりたくなければやらなくていいよ』と言うので、代役なんて使えませんでした。コン・ユはあれもこれも全部やってるので、何でもやりますと言いました。初日から膝のじん帯を損傷して、今も雨が降ると痛みます(笑)」

これまで作品を通して主に鋭く強い男たちと共演してきた彼は、今回の映画でもコン・ユ、チョ・ソンハの間でしっかりとしたバランスの中心をとりしながら映画への集中力を高める。“優しさの代名詞”コン・ユと共演する前に心配が多かったというパク・ヒスンだが、初対面の時点で“上手く合いそうだ”という確信があったそうだ。

「かなり心配しました。僕もコン・ユも人見知りをする方なので最初は打ち解けられませんでしたが、初めての飲み会の時、2次会、3次会と行くほどに気が楽になりました。コン・ユの立場からすると僕に対する偏見があったと思います。“あの人が僕をいじめたりはしないだろうか”という。僕は要らない力比べや、気の張り合いをする方ではありません。コン・ユもそうだったのです。気楽に接しようと言いました。(チョ)ソンハさんも昔より優しくなり、ユーモアのセンスも高くなっていましたね。大体、初対面の感じで分かります。『サスペクト 哀しき容疑者』は“これはいけるな”と思いましたね」

1990年に演劇「沈清(シムチョン)はなぜ、印塘水(インダンス)に二度身を投げたか」で俳優デビューを果たして以来、今まで23年間、ずっと役者の道を歩いている彼に演技を続けてこられた原動力について聞いてみた。「もうそんなになったのか」と驚いた後、じっくり考えていた彼は「僕に出来ることがこれしかなく、撮影現場で最後を過ごしたいから」と答えた。

「哲学、演技について勉強しても僕は作品分析という枠組みの中で勉強しました。社会的なことをするときも俳優という範疇の中にいました。また、僕がもっとも積極的で明るくいられる場所が撮影現場でもあります。現場、演技を抜いて僕を説明できることは何一つありません。『サスペクト 哀しき容疑者』だけを見ても、今回の作品だけで2年間を過ごし、生活してきたわけじゃないですか。演技に対する大きな哲学があるというよりは、人生であり生活なのです」

経歴23年目の俳優パク・ヒスンは最近、思春期を経験しているという。「俳優としての最後はいつだろうか、振り返る時点」に置かれたという彼は、映画という舞台と自身のフィルモグラフィーの中で何を見せ、どのように進むか悩んでいるそうだ。

「10年に1度、思春期がやってくるようです。演劇10年目になるとマンネリが訪れました。新しいことに対する渇きから映画をやるようになりました。映画に出るようになってから10年が経ち、最近再び思春期がやってきました。演劇の舞台に立つことが怖く、恐れていた時期がありましたが、逃げずに最後まで耐えました。すると乗り越えられて、新しいことがやりたくなりました。そんな意味で『サスペクト 哀しき容疑者』は僕にとってターニングポイントになりました。パク・ヒスンという俳優が大作映画でも通じるんだ、新しいものを見せられるんだという可能性を示したと思います」

記者 : キム・スジョン、写真 : ムン・スジ