チョー・ヨンピル「日本語のレコーディングをした時、とても心配でした」

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チョー・ヨンピル氏のライブを鑑賞した翌日、本人の登場を前に記者たちの間で交わされた会話だ。秋本番を迎えたソウルでの昼下がり、“King Of K-POP”ことチョー・ヨンピル氏が、日本の記者たちとのランチ懇親会の席を持った。

4月に発売した最新アルバム『HELLO』が25万枚のメガヒット、春から開催中の全国ツアーはのべ40万人を動員。そんな韓国音楽界のレジェンドが、今月『HELLO』の日本盤をリリースし、来月7日には15年ぶりの日本ライブを開催する。――だがその前に、日本では80年代に「釜山港へ帰れ」を歌った演歌歌手のイメージで止まっている人が多いのでは。若いK-POPファンは、彼が日本で活躍したことすら知らないだろう。

そこでチョー・ヨンピル氏の“今”を聞くべく、日本の記者たちがソウルへ集結。韓国でもほとんどメディアに出ない彼が、ライブにかける思いや日本についてなど、約1時間にわたって丁寧に応えた。

―昨日は秋雨のなか素晴らしいライブを見せて頂き大変感動しました。ところで全ての記者が気になる点なのですが、そのツヤのある若々しい声はどうやって保っているのでしょうか。また2時間以上ものライブを全力で完走する体力を、どうやって維持していますか?

チョー・ヨンピル:例えば歌う機会が2~3週間空いたとなれば、喉をほぐすために練習をします。もし1ヶ月以上ならもっと練習をして喉をいつもの状態に戻すようにします。それが3~6ヶ月間が空いたとすれば、1~2ヶ月のリハーサルをします。

―ソロギターのコーナーもあり大変カッコ良かったのですが、ギターも歌と同様に日頃かなり練習を?

チョー・ヨンピル:元々はグループサウンズのリードギターでした(※1969年「エトキンズ」でデビュー)。歌より先にスタートしたのは、実はギターなんです。グループを結成した当初、僕は歌が下手でギターばかり弾いていました。そのうち歌を始めるようになって、段々ギターを弾く機会が減りましたが、今でもステージでは弾くようにしています。僕が思うに、楽器を2つほど弾けてこそ、良いアーティストになれるのでは無いかと思います。

―ライブはヒット曲のオンパレードでしたが、選曲も大変でしょう。

チョー・ヨンピル:観客の年齢層も幅広いので大変ですね。この曲は好きなのになぜ歌わない?あの曲は今回歌わないのか?……と色んな要望がきますが、それはしょうがないですよね(笑) また次に聴いてもらうことにして。だからツアーの中でも少しずつセットリストを変えています。

―昨日のライブには小学生も来ていて、ヨンピルさんが「僕の歌、好きか?」と聞くと「はーい!」と答えていたやり取りが微笑ましかったです。ライブで最も幸せを感じるときは?

チョー・ヨンピル:一緒に歌を歌う瞬間ですね。最初から最後まで皆さん一緒に歌ってくれるので、それが最も力になります。

―では日本の観客の皆さんと歌うためのアイデアはありますか?

チョー・ヨンピル:おそらく現在韓国で歌っている曲は知らないでしょうから、難しいんじゃないかと感じています。まず聴いてもらうということが最優先ではないかと。日本でのライブは15年ぶりで、韓国でのヒット曲たちはまず知らないですよね。

―チケットを買って来る皆さんですから、きっとCDも聴いてくることだと思いますよ!

チョー・ヨンピル:そうだと嬉しいんですが(笑)

―日本でも韓国と同じアレンジで行く予定ですか?特に昨日のライブで、「釜山港へ帰れ」のアメリカンロック調なアレンジが素晴らしいと思ったので。

チョー・ヨンピル:はい、その予定です。

―「釜山港へ帰れ」は31年前の曲ですが、ヨンピルさんの名前を知らなくても歌は知っている人が多いです。日本でも大ヒットしたので思い出があるのでは?

チョー・ヨンピル:確かに僕が「釜山港へ帰れ」を最初に日本で歌いましたが、日本の歌手の皆さんも沢山歌いましたよね。だから僕のイメージだけではなく、様々な日本のアーティストを通して、皆さんの記憶に残っているのだと思います。やっぱり僕にとっては、当時の僕の名を広めてくれた歌だったので、とても重要な曲ですね。

―「釜山港~」に代表されるように、日本でのヨンピルさんは演歌や歌謡のイメージが強く残っています。韓国ではロックをはじめ多彩なジャンルを歌っていますが、(日本活動をした80年代は)時代的に演歌を歌うべき流れだったのでしょうか?

チョー・ヨンピル:僕の意志というより、最初はとりあえず韓国で大ヒットとなった「釜山港へ帰れ」を日本でやってみようというだけで、特別なコンセプトは無かったんです。ところが日本でもこの(歌謡調の)曲がヒットして、自然とその流れになったという経緯でした。

―ところで現在では、テレビに一切出演されずにライブアーティストとして邁進されていますが、ライブへのこだわりは?

チョー・ヨンピル:毎年ファンの皆さんと春にライブをスタートして冬に終わるのですが、皆さんと“同じ空間を過ごす”ことが重要だと思います。テレビは一方的に“見せる”ものですが、ライブとは“一緒に感じる”こと。アーティストはライブを通して、観客と交流すべきだと思っています。

―さて10年ぶりに新しいアルバムを出されたきっかけを教えて下さい。

チョー・ヨンピル:テレビには出演していませんが、コンサートは毎年続けていました。ただアルバム準備をしていた去年だけ久々に休みましたが。アルバムは、来年は出そう、来年は……と思いながら10年も過ぎてしまったので、必ず出そうと心に決めました。その代わり1年半~2年ほどの準備期間を設けて出すことにしました。最初はリリース後の反応は特に考えずに出し、多少は人気になれば嬉しいなという程度でしたが、予想外にも急速に多くの人に知れ渡ったので、運が良かったと感じています。

―特に、ポップな曲調の「Bounce」を最初に公開したとき、一気に話題となりました。K-POPアーティストをはじめ若い世代にも大きく支持されていますが、最初から若者をターゲットにしていたのでしょうか?

チョー・ヨンピル:私は年齢が上のほうですよね、現在60代ですが。アルバムを出すたびに色々考えるのですが、20代が好む音楽を歌ってこそ、僕の存在が長く続いて行くであろうと感じています。40代をターゲットにしたならば、そのぶん僕のアーティスト寿命は短くなります。僕自身も聴けば心ときめく音楽が沢山あります。僕のアルバムも20代がときめく作品を意識しました。

―今回「HELLO」の日本語バージョンに、2PMのテギョンさんをラッパーとして迎えていますが、日本の若者へのアピールもあり彼を採用したのでしょうか?

チョー・ヨンピル:そこまでの考えは無かったです。日本と韓国でのチョー・ヨンピルのイメージは違いますし、特に日本は久しぶりですから、スタッフたちとフィーチャリングには誰が良いだろうと選別を重ねました。色々意見を集めた結果、彼と一緒にすることになりました。

―ヨンピルさんにとって、テギョンさんとのラップバージョンの仕上がりは?

チョー・ヨンピル:2回録音したんです。最初はLOWな雰囲気が強いので、もう一回録ってみないかと言うと、彼自身からも、もう一回やりたいと。それでもう1テイク録ったものが採用となりました。僕も満足できる内容でしたよ。

―日本語バージョンの3曲(「HELLO」「Bounce」「歩きたい」)を聴きましたが、あまりに自然な日本語の発音で驚きました。普段から日本語を話す機会が多いのでしょうか?

チョー・ヨンピル:日本語は時々日本スタッフと話す程度ですね。ただ話せますが文字は読めないんですよ。だから、昔(日本の曲を)レコーディングした時と同じように、日本の歌詞にハングルのルビを打って歌いました。

―会話で話す日本語と、歌で完璧な発音の日本語を入れるのは、また違うと思うのですが。

チョー・ヨンピル:とはいえ何十年のノウハウがあるじゃないですか、僕には(笑)

―おっしゃる通りです(笑) 最近、日本語で歌う若手のK-POPアーティストも多いですが、どんなに練習して歌っても必ずクセが出るものです。ですがヨンピルさんは日本の人が歌っているかのようにきれいな発音なので、どうやって習得したのか気になります。

チョー・ヨンピル:実は日本語のレコーディングをした時、とても心配でした。どんなふうに聴こえるのかと。レコーディングのときは日本スタッフも居ない中で歌ったんです。自分なりに日本語の歌詞を研究して歌ってみたのですが、日本側がどう受け止めるかなと……。幸いにも良いも悪いも特になく(笑)、発音いいですねという反応が返ってきてホッとしました。

―ヨンピルさんは、現在韓国で、“最高”“元祖”などの称号が必ず付きましたが、これから何か新しく叶えてみたいことはありますか?

チョー・ヨンピル:僕は何かを達成しようとしてやってきたのではなく、歌い続けるうちに自然と叶っていたというだけです。若いころアメリカに行ったとき、世界的なアーティストのライブに行けば、3世代で観に来ているんですよ。祖父、父、息子と。韓国でこんな光景が見られるだろうか……と思っても、韓国は音楽文化がまだ浅いので、誰かがやらなければならないだろうなと当時思っていました。それが気がつけば、僕自身が達成できていたのです。

一方で最近は、ビートルズの歌を若者も年配も好きな理由は何だろう?ヒット曲ができる要素はなんだろう?そんなことを考えます。例えば僕がこの世を去ったあと、ビートルズの「イエスタディ」のように愛し続けてくれるだろうか、それとも忘れられるのだろうか?アーティストなら考えない人はいないでしょう。現在僕の歌を子供たちも好んで聴いてくれています。今10歳の子が僕の歌を聴いて50年経てば、60歳になりますよね。その時には僕は居ない。でも僕の歌は覚えていてくれるでしょう。つまり何かを叶えるというより、多くの良い歌をやヒット曲を、沢山世に残したいということです。

―ヨンピルさんの思う“音楽の力”とは何でしょうか。

チョー・ヨンピル:“音楽の力”というのは、やはり感動から始まるものだと思います。感動が無ければ、単なるうるさいだけの音。音楽は感動を通じて、お互いが理解し愛おしく感じあい、通じ合えるものです。“音楽の力”には、必ず感動が必要だと感じています。

―日本のライブには、昔のファンの方も、K-POPが好きでネットを通して今の歌を知った若いファンも来ることでしょう。様々な世代が来るであろう日本のファンに、どんな思いを伝えたいでしょうか。

チョー・ヨンピル:複雑には考えていません。日本の観客に向けてこうしよう、ああしようと意識すると、気持ちがバラバラになるので、ありのままを見てもらおうこと、揺るがないことです。僕の声で音楽を感じ取ってもらえたら幸せです。

―最後に、久々の日本で何が食べたいでしょうか?

チョー・ヨンピル:しゃぶしゃぶで!

■公演情報
KING OF K-POPが東京で一夜限りの特別公演
「チョー・ヨンピル "Hello Tour" in Tokyo」
11月7日(木)東京国際フォーラム ホールA
18:30開演 チケット¥9,450
各プレイガイドにて発売中
【問】クリエイティブマン 03-3499-6669 www.creativeman.co.jp

■アルバム情報
『HELLO』日本盤、10月16日発売
初回盤(CD+DVD)¥3,990 通常盤(CD)¥3,150
※「Bounce」「Hello」「歩きたい」の日本語Ver.も収録
※「Hello」日本語Ver.にはラッパーとして2PMのテギョンが参加

「HELLO」(Feat.2PMテギョン) 日本語バージョンMV

記者 : Kstyle編集部