「観相師」ハン・ジェリム監督“夢の豪華キャスティング?…今なら不可能”

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ジャンルを“いじること”に関しては右に出る者はいないというハン・ジェリム監督(38)が6年ぶりに戻ってきた。ほろ苦いラブコメディ映画「恋愛の目的」(2005年)で成功的なデビューを果たし、その翌年に「優雅な世界」で生活ノワールという新しいジャンルを開拓したハン監督。たった2本の映画で自身の映画の世界を強固にすることに成功した彼は、スーパーヒーロー映画「トレース」が不発に終わり、不本意ながらも6年間のブランクを経験した。多くのプレッシャーを抱えたまま下半期最高の期待作「観相師」(制作:JUPITER FILM)で戻ってきたハン監督は「言葉にできないほど緊張しています」と感想を述べた。

「『恋愛の目的』『優雅な世界』は、それぞれラブストーリーやノワールジャンルをいじってみたくて作った映画でした。『観相師』は歴史を前にした個人の敗北感を時代劇というジャンルを通して見せたくて作りました。私の映画はいつも評価が分かれています(笑) そして『観相師』も同様のようです。良かったという方も多いですが、残念だったという方も多かったです。『ハン・ジェリムらしくない』というのが最も大きな理由のようですが、『観相師』はより普遍的な映画です。私特有の世界観が溢れるハツラツとした表現は止め、映画全体を通してもの悲しさを伝えたかったのです」

朝鮮時代の天才観相家ネギョン(ソン・ガンホ)が、韓国の歴史上最も悲劇的な事件である癸酉靖難(ケユジョンナン:首陽大君が王の座を狙って起こした朝鮮王朝史に残るクーデター)に巻き込まれたことで展開される物語を描いた「観相師」は、ペク・ユンシク、ソン・ガンホ、チョ・ジョンソク、キム・ヘス、イ・ジョンソク、イ・ジョンジェなど、出演俳優の顔ぶれを見ても一体彼らをどのように集めたのか不思議に思うくらいだ。まさに“夢のキャスティング”と言っても過言ではない。

「ネギョンは喜劇と悲劇を行き来するキャラクターです。物語の中でもムラがある人物で、物語の大きな枠組みとなる人物です。この役にはソン・ガンホ先輩がぴったりだと思いました。このような重荷を背負える俳優はソン・ガンホ先輩しかいませんよね。また、ペク・ユンシク先生の映画に対する力やペンホン役のチョ・ジョンソクの大衆的な雰囲気も必要でした。誰一人として歪んでいたり、私に苦労をかけたりする俳優はいませんでした」

写真=SHOWBOX
「観相師」の最大の長所は、俳優たちがそれぞれの立場で表現できる最高の演技を披露したということだ。シーンごとの微妙なニュアンスを上手く活かすことで有名なハン監督の細かいタッチが輝いた部分だ。特に原作のシナリオにはなかったヨンホン役のキム・ヘスは、登場とともにスクリーンを圧倒する。ネギョンを歴史の渦へ追い込む重要な役割をするヨンホンは、厳しい世の中に耐えながら培った空気を読む能力で、商人と朝鮮一の妓生(キーセン:朝鮮時代の芸者)の間を行き来し、物語をより一層豊かなものにした。

「ヨンホン役は誰が適任か、たくさん悩みました。若くて綺麗でセクシーな女性、色んな方がいると思いますが、観客とネギョン両方の心をつかむことのできるカリスマ性が必要だったため、並の女優では説得力がないと思いました。それにはキム・ヘス先輩しかいませんでしたね。役の重要度に比べて登場場面が少ないので気軽にシナリオを渡すことができずに悩みましたが、喜んでOKしてくださったので感謝しております」

以下はハン・ジェリム監督との一問一答である。

―キャスティングが嫉妬してしまうほど豪華だ。

ハン・ジェリム:完璧な役者たちでした。キム・ヘス先輩はKBS 2TVドラマ「オフィスの女王」が大ヒットしましたし、ソン・ガンホ先輩も映画「スノーピアサー」が大ヒットしました。イ・ジョンソクくんは言うまでもありません(笑) 今彼らを一本の映画に集めることは不可能だと思います。「観相師」が始まった頃は素朴でした。本当にありがたいことに素晴らしい俳優のみなさんが集まってくれました。その方々が「観相師」出演後、それぞれ各自の作品もヒットしました。おかげで感謝の気持ちもありますが、同時にプレッシャーもものすごく大きいです。

―キム・ヘスがイ・ジョンソクをキャスティングしたことについて「監督の目利きは素晴らしい」と絶賛したようだが。

ハン・ジェリム:実際ジンヒョンは典型的なキャラクターではありません。ですので典型的ではないタイプの俳優に演じてほしかったんです。より堂々としていて、背も高く、カッコいい俳優が演じてこそ、物語の後半には感情がより一層増して盛り上がるだろうという信念がありました。

―ソン・ガンホ、チョ・ジョンソクのアンサンブルが期待以上だった。

ハン・ジェリム:映画の現場は、100人ほどのスタッフが素早く動き緊張感のある空間です。そのため、先輩という存在がいかに後輩たちをリラックスさせることができるのかによって演技の出来は完全に変わってきます。ソン・ガンホ先輩がチョ・ジョンソクさんをうまくリラックスさせてくれました。言い換えれば、思う存分演技ができるようにしてくれたとも言えます。ソン・ガンホ先輩がチョ・ジョンソクさんに硬い言葉で話しかけていたら、ここまで素晴らしいアンサンブルは生まれていなかったでしょう。

―ハン・ジェリム特有のディテールがなくなったという感じがした。

ハン・ジェリム:「観相師」は、歴史の前では一人の人間がいかにちっぽけな存在なのか、その悲しさについて描きたかった作品です。光化門(クァンファムン)のような歴史的な建物は数百年経ってもそのままですが、私たちは本当にちりのような存在でしかありません。ネギョンが歴史の大きな流れの中で無力になるところを見て、果たして誰が歴史の真なる敗者で勝者なのかを考えて欲しかったのです。すなわち「観相師」は私が好んで表現していたディテールよりは物語そのものがもっと重要な映画です。感情の起伏に焦点を合わせたことが残念だったという方も多くいました。もし「観相師」が今回より小さな規模の物語を描いていたならば、私の好きなハンドヘルドやジャンプカットの手法をたくさん使ったでしょう(笑)

―音楽が少し過剰だったのではないかという指摘もある。

ハン・ジェリム:音楽は私が決めた部分が多いです。イ・ビョンウ音楽監督は、映画の背景に溶け込ませるタイプですが、それを私がもっとスクリーンの外へと連れ出しました。

―ラブコメディ「恋愛の目的」ノワール「優雅な世界」に続き、今回は時代劇だ。毎回違うジャンルに挑戦する理由はあるのか。

ハン・ジェリム:普段から時代劇に対する興味は常にありました。ジャンル的に注目を浴びるジャンルですので。「観相師」は私にとってとても楽しい経験でした。ただ時代劇だからといって歴史的な事実が詳細に描写されるべきだとか再解釈されるべきという視線にはプレッシャーを感じます。「観相師」はそのような映画ではありません。癸酉靖難というフレームの中である観相家の物語を描きたかったのです。観客は映画のチケットを購入する前に「この映画は面白そうだから買って見てみよう」と思ったりします。観客が「観相師」にどのような期待をしているかは私も知っています。心配なのはその期待と「観相師」の内容との間にギャップがあるということです。

―では観客に「観相師」をどのような映画として見てほしいと思うのか。

ハン・ジェリム:「観相師」は胸が苦しくなるような映画です。癸酉靖難に対する再解釈、観相に関する深みのあるディテールよりも歴史を前に波のように崩れていく個人の人生の物語に関心を持って見てほしいです。

記者 : キム・スジョン 写真 : キム・ジェチャン