【スターコラム】イ・ビョンホン、懐かしい父との思い出…語り切れなかった映画の話 ― Vol.2

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映画「王になった男」で1千万俳優(1000万人の観客を動員した俳優)の仲間入りを果たしてから、もう3度目となるハリウッド映画「REDリターンズ」を通じて意外な魅力をアピールしたイ・ビョンホンの順調な足取りが注目を浴びている。イ・ビョンホンは、映画「REDリターンズ」で元CIAエージェントRED(Retired Extremely Dangerous)のリーダーのフランク(ブルース・ウィリス)の命を狙う最強の殺し屋ハン・ジョベ役で登場し、これまでのアジア俳優の典型となった単純な悪役に対する認識を変えることに成功したという評価を受けた。彼はカリスマ性がありながらも、時には何かにとことん執着し、どこか少し足りない“ホダン”(しっかりしているように見えるが抜けている人)のような姿までも見せて、観客にギャップのある魅力をアピールする。NAVERスターコラムを通じて俳優イ・ビョンホンの人間的な魅力を探ってみよう。/編集者

NAVER スターコラム:イ・ビョンホン


想定していなかった俳優としての道

僕は子どもの頃から俳優になることが夢ではなかったし、なりたいと思ったことさえ一度もありませんでした。KBS公開採用14期タレントになったのも、周りからの勧めがあったからです。

大学生の時、僕は軍に入隊するために入隊願書を出して家で休んでいました。ある日、友達の母親がうちに来て、僕にKBS公開採用タレントの願書を渡しながら俳優に挑戦してみることを勧めました。

僕は友達の母親に、「人前できちんと話もできない僕が俳優だなんてとんでもない」と断りました。すると、僕の母親は「うちの家族から俳優が出てくるなんて、期待もしないわ。あなた、顔も男前じゃないのに俳優になれるの?」と言いました。そうしながらも僕の母親は、「それでも願書を持ってきてくれた方の気持ちもあるし、男の子なんだから色々と経験してみるのも良いでしょう。タレント試験なんて滅多に経験できることじゃないんだから」と提案してくれました。

そこで僕は写真学を専攻する友人にプロフィール撮影を頼み、書類選考に応募しました。幸運にも最終選考まで一度で合格しました。熾烈な競争を勝ち抜いて成し遂げた成果でしたが、他の合格者たちとは心構えが違いました。

その人たちには、本当に心から俳優になりたいという切実さがありましたが、僕はその時まで俳優になることに対し、これといって惹かれるものはありませんでした。研修期間中にも、できなければ途中で降板させるという話に他の合格者たちの間では緊張感が漂っていましたが、僕は「最初から俳優になろうと思ったわけでもないから」という心構えで気楽にしていました。

そうして1991年、KBS 1TV4期公開採用タレントとして俳優の道を歩むことになりました。本当に思いもしなかった職業に就くことになり、僕も不思議でした。専門的に俳優の勉強をしたわけでもなく、デビューの時から様々なドラマに出演しながら徐々に認知度を上げました。

そうして1年、2年と経つにつれ、俳優という職業に魅力を感じるようになりました。「俳優であれば僕の全てを注ぐことができる」と思いました。それだけ俳優の魅力にすっかりはまっていたと思います。

本当に懐かしい僕の父親

会いたい僕の父親……“ハリウッドキッド”の胎動

このようにして、友達の母親の勧めから俳優の道を歩むことになりました。ある意味では僕の人生を完全に変えたと言えると思います。しかし、最近僕の周りやメディアを通じて、とりわけ父親の話を頻繁にしているような気がします。そのおばさんより先に、亡くなった父親が僕を俳優の道へと導いてくれたようだと……。

よく考えてみると、子どもの頃に父親と一緒にMBC「週末の名画」をはじめ、TVで放送される白黒映画をたくさん見ました。そのとき父親は、僕に向かって「あの俳優は誰々という俳優だが、今回の映画でどのような役を務めて、演技が上手だ」「あの女優は誰々が夫で、映画にこのようにキャスティングされ、目の演技がとても上手」などと言いながら、まるで映画評論家のように絶えず説明してくれました。

僕は当時、小学生で、本当に子供でした。子どもに分かるわけがありません。映画の内容や俳優の名前が何なのかも、全く分かりませんでした。ただ、父親と一緒に映画を見ながら説明を聞くことが面白く、不思議だったと思います。また、父親には映画館にもたくさん連れて行ってもらいました。おそらく……父親のお陰で、僕が無意識のうちに映画や映画館に対するファンタジーをとてもたくさん持っていたのに、成長していく中でそれに気付けなかったのではないだろうかと思いました。今になって考えてみるとそういうことだったということです。

映画館という空間もとても好きでした。まるで映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のトトとアルフレードおじさんのように、僕もまた父親を尊敬して慕っていたと思います。その映画の全体的な情緒のようにです。

子どもの頃の映画館を思い返すと、その時はまだ指定席もなく、ただ先着順に入って座れました。さらに、人気のある映画だとチケットが売り切れとなり、立ったまま見たりもしました。するめやピーナッツ、羊羹などのおやつを販売される方も歩き回っていました。

僕が4歳のとき、映画「パピヨン」を初めて見ましたが、僕を含め子どもたちは立ったまま映画を見ていて、トイレに行きたくても我慢しました。トイレに行っている間にシーンを逃すことが嫌だったからです。

映画館の中には、色んな匂いが混ざっていました。するめやピーナッツの匂い、子どものおしっこの匂い、セメントの匂いなどなどです。チケットを購入して映画館の中に入ると、その匂いが僕の鼻の中に入り、その時から心臓がドキドキしました。「映画が好きなのか、映画館が好きなのか」分からないほどにです。条件反射のようなものだったと思います。

子どもの頃、父親は僕にとってヒーローのような存在でした。母親とは全く正反対のイメージでした。僕の母親は、僕がこれから家庭を築く大黒柱であり、長男だったので僕にとても厳しかったんです。父親はそんな僕をいつも優しく包んでくれました。一般的な家庭とは全く逆でした。ハハハ。何も知らない子どもの頃は、父親は正義の味方のヒーローで、母親は悪役のように思っていました。

3ヶ月間、毎日15匹の魚を食べながら運動した体です^^

有難いディーン・パリソット監督と愛する家族たち

最近公開された「REDリターンズ」の撮影当時、ディーン・パリソット監督がある日僕に「君の子どもの頃の写真が必要だ。父親と一緒に写った写真はないのか」と聞いてきたので、子どもの頃に父親と一緒に撮った写真を監督に送りました。

劇中で、ブルース・ウィリスが僕の飛行機に入って、僕の写真を手に取って見るシーンがありますが、その時に使われる写真でした。撮影が忙しかったので、しばらく忘れていました。撮影の最後のほうに、飛行機のセットに何も考えずに入りましたが、僕が監督に送った父親と一緒に撮った写真を見つけました。本当に何かがこみ上げてきました。

僕がブルース・ウィリスに「どこから引き裂いてやろうか」と韓国語で言うシーンです^^
その時、監督のもとに行き、父親が僕にとってどのような存在だったのかを説明しました。僕は監督に、「先日ハリウッドでハンドプリントをした時、『父親はハリウッドマニアだった。15年前に亡くなり、今は僕のそばにいないが、どこかで僕を誇らしく見守っているはず』と感想を述べた」と言いました。そして、僕は監督にまた「父親の写真が映画に出るなんて本当に感動している」と改めて感謝の気持ちを伝えました。

すると、監督は「私は君の話の方がもっと感動的だ。エンドクレジットのスペシャルサンクスに君の父親の名前を入れよう。スペルを教えて欲しい」と言いました。それを聞いて、また感動しました。最近ニューヨークで行われた「REDリターンズ」のプレミア試写会に参加しましたが、監督が父親の名前をエンドクレジットではなく、メイン出演者のタイトルに入れてくれました。僕の名前の直ぐ下に父親の名前が出てきます。本当に、監督には何度も感動されられました。

その後、映画の編集が行われ、編集する方が僕と父親が一緒に撮った写真が登場するシーンを削除しようとしました。映画の展開上、そのシーンはいらないと判断したそうです。すると、監督は「他は全部カットしても、あのシーンはダメだ」と強く主張してくださいました。本当に、人間としてもとても素晴らしい方だと思いました。僕以外の人に接する時も常に思いやりがあります。監督のことは、本当に忘れられません。

僕に常に厳しく、ぶっきらぼうだった母親も、今回の映画は違ったようです。ブルース・ウィリス、アンソニー・ホプキンス、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレンなど、名前を聞くだけでも伝説レベルの俳優たちと共演したからです。やっと僕がハリウッド俳優になったと実感するようになったそうです。実は、母親は映画「G.I.ジョー」撮影の時に僕が「チャニング・テイタムやシエナ・ミラーと共演してるよ」と言った時は反応が薄かったんです。母親の世代にはあまり知られていないようで。ハハハ。

家族も「REDリターンズ」を見ましたが、みんな感動したそうです。母親は目がうるうるしていました。何かこみ上げて来るものがあったそうです。そして、僕に「お父さんも自分の写真がスクリーンに映っているのを見たら、どれだけ喜んだだろうね」と言って、僕の背中を叩いてくれました。

「REDリターンズ」の主役たちと一緒に撮った記念写真です

最も理想的な俳優観と現実とのズレ

最近、後輩のために講義をすることが多くなりました。僕はそのような席が未だに慣れません。そもそも俳優が夢だったわけではなく、体系的に演技を勉強したことがないので、教科書的なアドバイスができませんでした。そこで僕は、僕の経験を基に後輩たちにアドバイスをします。自分の中にまだ少年らしさが残っているのであれば、それを恥ずかしく思ったり、大人になろうと努力してはいけないと。

僕は「G.I.ジョー」のスティーヴン・ソマーズ監督の家に何度かお邪魔させてもらったことがあります。監督の個人スペースに、子どもたちが遊べる遊び場が設けられていました。僕は最初は監督のお子さんたちの遊び場だと思いましたが、違いました。そこは監督の遊び場でした。50歳を超える大人にも関わらず、このような遊び場があるというのは、まだ少年らしさを失っていないということです。だからこそ、奇抜でクリエイティブなアイデアが出てくるのだと思います。

俳優や監督のようにクリエイティブに働く方々は、自分の中にある少年らしさをなくしたり、恥ずかしく思わないで欲しいです。韓国の文化では、「そろそろ大人になりなさい!」「隣の子はそうじゃないのに、あなたはどうしたの?」と叱る文化です。常に、このように言われながら育った僕の後輩の役者たちは共感できると思います。

法律に背かない範囲で道から逸れるということも経験してみて欲しいです。日常から逃れる行為であっても、他人の目にはおかしく見えることでも、一度経験してみて欲しいです。自分の感情の赴くままにすることが重要ですが、韓国の文化は道徳的基準で評価する文化なので、ユニークでクリエイティブな思考で行動するとき、大変なことも多いでしょう。僕もやはり、役者として道徳的なものさしでクリエイティブな思考が制約されるときが一番大変でした。世の中と妥協し、色々と守りながら生きるために努力しますが、後輩には僕が理想とする俳優の姿を見せれるように努力します。

僕の話はいかがでしたか?いつもそうだったように、最善を尽くす俳優になります^^
僕の長い話を読んでくださったNAVERスターコラムの読者の皆様、ありがとうございます。新しい映画「REDリターンズ」に、たくさんの声援をお願いします。

映画の後、僕は8月10日に、賢明で一緒にいるといつも僕を笑顔にしてくれる素敵な女性との人生の新しいスタートを目の前にしています。これからは一家の大黒柱として、俳優としても本業に充実し、良い姿をお見せできるように努力します。そしていつもそうだったように、与えられた仕事に最善を尽くして、さらに良い姿で戻ってきます。

文:イ・ビョンホン

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記者 : NAVER芸能、編集 : ファン・ヨンヒ、写真 : Issuedaily、(株)ブルミジ、BHエンターテインメント