【コラム】上半期ドラマ決算「ナイン」「私の10年の秘密」「世界の終わり」 ― キム・ソニョン

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「信じたいファンタジーは信じればいい」

tvN「ナイン~9回の時間旅行~」(以下「ナイン」)のこの台詞はドラマに対する一種の定義に近い。ドラマとは興味深い想像力や安定した構成力で視聴者を説得するファンタジーだ。しかし残念なことに、ドロドロ劇が溢れる現状の中で、それは希少なものになりつつある。今年上半期の最大の特徴としてリメイクブームが挙げられるということが、陳腐な想像力や構成力という現在のドラマの決定的な問題点を再確認させてくれる。1999年の革新的だった時代劇「ホジュン 宮廷医官への道」が旧態依然な毎日ドラマ「ホジュン~伝説の心医~」として戻ってきたのが端的な症候といえる。このような中で上半期のベスト作品として選んだ3つの作品はストーリーや物語の楽しさ、現実に対する省察まで含まれている点で久しぶりに喜んで“信じたいファンタジー”を見せてくれる。

tvN「ナイン」

「ナイン」こそ私たちが待ち望んでいたファンタジーだった。この作品はある日突如として登場した問題作ではなく、ケーブルドラマという媒体とソン・ジェジョンという才気あふれる脚本家が地道に積み上げてきたジャンル的能力が最大値に発現された必然の結果物に近い。家族ドラマや恋愛ドラマ、ミステリー等、様々なジャンルを試みてきたMBCシットコム(シチュエーションコメディ:一話完結で連続放映されるコメディドラマ)「思いっきりハイキック!」から始まったソン・ジェジョン脚本家のジャンルの実験がtvNという適切な場に出会い「ナイン」を作り上げた。実際にこの作品のタイムスリップはあらゆるジャンルを探索する旅に近い。謎のお香を焚くと20年前に戻るというファンタジー的な設定から始まったドラマは、主人公パク・ソヌ(イ・ジヌク)が過去に戻るたびに家族ドラマや切ない恋愛物語、推理ドラマ、アクションサスペンス、復讐劇等、様々なジャンルへの変身を繰り返した。

このようなジャンルの実験を一つに結ぶタイムスリップの形式が、人間の有限な運命に立ち向かう意志というテーマと密接につながっている点においても優れている。9つのお香と30分という時間、20年前の過去という時間旅行の制限条件は、この作品に決定的なサスペンスを与えると同時に、決まった将来を最善を尽くして変えようとする人間の奮闘をさらに激しいものにする。将来を変化させようとする瞬間瞬間の選択がモラル的な質問を伴う点も印象的だ。時間の移動による連続した波及効果を経験し、欲望と正義の間に挟まれたパク・ソヌの葛藤は、互いにつながっている存在としての人間に対する省察を提供する。要するに「ナイン」は韓国のジャンルドラマが見せられる最大限の楽しさと意味を同時に達成している。

SBS「私の10年の秘密」

「私の10年の秘密」は韓国のドラマでもっとも陳腐なジャンルである家族ドラマの慣習に挑戦する秀作だ。このジャンルの悪名高いクリシェ(決まり手)をタイトルとして使用したことからもそのような意図が表されている。韓国の家族ドラマがドロドロ劇の温床になった根本的な背景である通貨危機の時代から物語が始まる理由も同じ意図からだ。1997年、お金のせいで困窮に陥り、両親を失った男女主人公のストーリーから始まる前半は、経済的な理由によって家族が解体される通貨危機の兆候を見せる。さらにストーリーが興味深くなるのはその後だ。時間的な背景は急に10年後に飛び、主人公チョン・イヒョン(ソン・ユリ)はこれまでの記憶をすべて失う。

「私の10年の秘密」はそれから家族ドラマのもう一つのクリシェである記憶喪失を利用し、このジャンルの陳腐さを皮肉る。チョン・イヒョンの前に徐々に表れる巨大財閥イェガグループ一家の貪欲さや醜い様子は“ドロドロ劇”によく登場する設定だが、記憶を辿っていく推理がその慣習についてもう一度考えさせる効果を発揮するのだ。それと同時にイェガグループの“地獄”の反対側で回復するのは夫のホン・ギョンドゥ(ユ・ジュンサン)と娘ヘドゥム(カル・ソウォン)の上に、父親チェ・グク(キム・ガプス)の愛、ホン・ギョンドゥの隣人たちが見せる共同体の情のような解体以前の家族的な価値だ。最終的に「私の10年の秘密」は陳腐な家族ドラマの慣習を覆し、通貨危機以降、お金に対する露骨な欲望の虜になった韓国社会が失ってきた価値を振り返らせる。

JTBC「世界の終わり」

「世界の終わり」は人類の歴史において空前絶後の伝染性や致死率の高い致命的なウイルスを題材にしたパニックドラマだ。しかし、この作品はパニックの光景を見せることにはあまり関心がない。その代わりその災難をさらに拡張させる韓国社会の官僚システムの不条理をゾッとするほどリアルに表現する。例えば、疾病管理本部の諮問役が疫学調査チーム長を任命し出身校を重視する姿や、ワクチンの開発をめぐってノーベル医学賞を心配するシーン等、韓国社会特有の見慣れた旧態や弊害を暴露する細かい描写は現在ほとんどのドラマに欠如しているリアリティの力をよく見せてくれる。国民の安全より不安による騒ぎの統制や権力の維持のほうに関心がある政治家たちの姿も韓国の現実を如実に表している。要するに「世界の終わり」はパニックドラマの形式をし社会告発ドラマに近い。

偶然にもこの作品を本当のパニックドラマにした要因もドラマの外部からの圧力であった。総合編成チャンネルと社会批判という似合いそうにない組み合わせの結果が、低い視聴率による早期終了という災難につながったのだ。当初予定されていた20話の半分に近い8話が省略され、週2回の放送から週1回編成に変更された。「世界の終わり」の悲劇的な終末は韓国のドラマ市場の現実を見せる憂鬱な事例だ。視聴率至上主義に支配された地上波は新しいストーリーや形式の作品より安全なストーリーを好み、総合編成チャンネルはこれをより圧縮的に実践する。“信じたいファンタジー”の発見はますます困難になっている。

文:コラムニスト キム・ソニョン

「NAVERコラム - キム・ソニョン編 -」では、今話題の人物にクローズアップし、コラムニストのキム・ソニョン氏が執筆。韓国で注目が集まっている人物や出来事についてお届けします。

記者 : キム・ソニョン