「馬医」イ・ビョンフン流時代劇は、なぜ期待ほど成功できないのか

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“イ・ビョンフン流時代劇”が限界にぶつかった理由

月火ドラマの視聴率戦争が、まさに佳境に入っている。MBC「馬医」とSBS「野王」が同時間帯1位の座をめぐってしのぎを削っているためだ。「馬医」が余裕でリードするという当初の予想とは裏腹に、復讐という強烈な題材を掲げた「野王」の勢いが、対立構図を揺るがしている。“時代劇の達人”イ・ビョンフン監督が演出し、トップスターのチョ・スンウを掲げた「馬医」は、なぜ期待ほどの成績を出せずにいるのだろうか。

写真=MBC

毒となってしまった“イ・ビョンフン流時代劇”

トップスターチョ・スンウの初めてのドラマ出演作としても話題を集めた「馬医」は、イ・ビョンフン流時代劇の“ヒット神話”を引き継ぐ作品として、内外から大きな注目を集めた。しかし、放送終了まで8話を残したこの時点で、「馬医」の勢いは依然として横ばい状態であり、なかなか20%台の視聴率を超えられないでいる。申し訳ない話だが、期待をはるかに下回る成績を記録していることだけは確かなようだ。

言うまでもなく、イ・ビョンフン監督は素晴らしい演出者だ。1999年「ホジュン~宮廷医官への道~」で韓国時代劇の新しいページを切り開いただけでなく、2003年「宮廷女官チャングムの誓い」では類い稀なる能力を見せつけた。几帳面で細かい演出力と、現場を仕切るカリスマ性は、他の追随を許さないほどだ。問題は、彼の時代劇が15年の歳月を経て、次第に“古くて月並みなもの”へと変質してきたことにある。「馬医」の限界は、まさにこの部分から始まるのだ。

イ・ビョンフン流時代劇のストーリーのほとんどは、身分の低い主人公が色んな逆境と苦難を乗り越え、目標を達成するという典型的な英雄譚に基づいて作られる。「ホジュン~宮廷医官への道~」「商道-サンド-」「宮廷女官チャングムの誓い」「薯童謡(ソドンヨ)」「イ・サン」「トンイ」に至るまで、このようなパターンは変わらなかった。正確に言えば、人物と題材だけ変わっただけで、ストーリーの大きなあらすじは毎回“二番煎じ”になったわけだ。視聴者がイ・ビョンフン監督の時代劇に飽きを感じる理由は、まさにここにある。

さらに大きな問題は、似たような商品を出しているなら、最低でもデザインや包装くらいは変えなければならないが、それさえもままならなかったところにある。「馬医」は、これまで目にしてきたイ・ビョンフン流の英雄譚に、漢方医学や宮中の暗闘を加えた程度に留まっている。「ホジュン~宮廷医官への道~」と「宮廷女官チャングムの誓い」で、漢方医学と水刺間(スラガン:王の食事を作る台所)という新鮮な題材を取り上げたイ・ビョンフン監督が、「イ・サン」「トンイ」「馬医」を経ながら、古臭い政治的暗闘と陰謀だけに埋もれつつあるのは、残念極まりないことである。

写真=MBC

自分の役割を果たせていない脚本家も問題

ここで注目すべき人物が、もう一人いる。それは、脚本家だ。ドラマは、脚本家の影響力が絶対的なジャンルだ。イ・ビョンフンはかつて、「朝鮮王朝500年」シリーズでシン・ボンスン脚本家とタッグを組み、「ホジュン~宮廷医官への道~」「商道-サンド-」ではチェ・ワンギュ、「宮廷女官チャングムの誓い」ではキム・ヨンヒョンとタッグを組んだ。3人とも現代最高のドラマ脚本家と言っても過言ではない。

シン・ボンスンは、韓国最初の時代劇「国土万里」から「朝鮮王朝500年」シリーズ、「韓明澮(ハン・ミョンフェ)」などを手がけた脚本家で、韓国時代劇の生き証人だ。チェ・ワンギュは「ホジュン~宮廷医官への道~」「商道-サンド-」「朱蒙(チュモン)」など時代劇だけでなく、「総合病院」「オールイン 運命の愛」「光と影」など、ジャンルをまたがり大成功を収めたヒットメーカーで、キム・ヨンヒョンもやはり「宮廷女官チャングムの誓い」「薯童謡(ソドンヨ)」「善徳女王」「根の深い木~世宗(セジョン)大王の誓い~」など大ヒット作を作り出した大物脚本家だ。

しかし、キム・イヨン脚本家は、「イ・サン」「トンイ」「馬医」共に、貧弱なストーリーラインと踏ん張りのなさによって、確固たる勢いを作り出せずにいる。特に彼の作品は、主人公に大きすぎる比重を与えてしまい、周りの人物の個性があまり活かされないという弱点がある。現在の「馬医」でも、目につくのはただ一人“ペク・クァンヒョン(チョ・スンウ)”だけだ。このような状況で、「ホジュン~宮廷医官への道~」のユ・ウィテ(イ・スンジェ)や「宮廷女官チャングムの誓い」のハン尚宮(ヤン・ミギョン)のような素敵な師匠の登場を期待するのは難しい。

新しい題材をうまく活かしきれていないことも残念だ。「馬医」は、獣医という題材を扱う点で、「ホジュン~宮廷医官への道~」「宮廷女官チャングムの誓い」とは明白に差別化できていた。人間と動物との交流、そこから起こる色んなエピソードをドラマチックに描いたならば、きっと大きな呼応を得ていたはずだ。しかし、「馬医」は、これまでの時代劇のヒットパターンを繰り返しただけで、視聴者が期待する新しい絵を与えることはできなかった。これは以前「イ・サン」の図画署(トファソ:王室の画事を担当する官庁)、「トンイ」の剣契(コムゲ:賤民たちの秘密組織)が非常に新鮮な題材だったにも関わらず、メインストーリーの背景程度に留まり、その機能を失っていたことを思い浮かばせる。

このように現在の「馬医」は、収拾しきれない様々な限界に直面したまま、足踏み状態が続いている。残念なのは、このドラマがイ・ビョンフン監督が直接演出する最後の作品になる可能性が高いということだ。“時代劇の巨匠”イ・ビョンフンは、果たして「馬医」をうまく締めくくり、有終の美を飾ることができるのだろうか。名誉ある退場を誰よりも切実に望んでいるであろう彼が、放送終了を1ヶ月前に控えたこのタイミングでどのような話を準備しているのか、また、競合作を抑え同時間帯1位の座を逃さずにいられるのか、気になるところである。

記者 : キム・ソンギュ