【ドラマレビュー】「野王」それでも貧困は免罪符にならない 

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SBSドラマ「野王」正直さよりも金を選ぶ社会に投げかけるメッセージ

女の裏切りは恐ろしかった。成功のために夫を捨て、金のために娘を見捨てた。愛の前に非情になり、母性の前に冷静を選んだ。彼女はひたすら欲望だけを追い求めた。まるで怪物の誕生を見るようだった。

韓国で28日に放送されたSBS月火ドラマ「野王」の第5話でチュ・ダヘ(スエ)は、ハリュ(クォン・サンウ)に別れを告げた。ドフン(東方神起 ユンホ)と共にアメリカから帰ってきた彼女は、家族の代わりにペクハクグループを選択した。彼女は帰ってきてくれと言うハリュに「一度も幸せだったことはない。もう離してくれ」と毒舌も吐いた。彼女にとって夫と娘は、戻りたくない過去であるだけだった。

もちろん彼女にも理由はあった。彼女は子供の頃、貧しさに負けた親が練炭自殺をするところを目撃した。貧困のせいで父を亡くし、貧困のせいで義父に性的虐待を受けた。貧困は母さえも奪った。貧しくて勉強さえできなかった彼女の人生はいつもそのままで、彼女がいくら足掻いてもいつも絶望するだけだった。そのためなのだろうか。自分の娘には貧困を知らずに生きてほしいという彼女の独り言は、ある程度は説得力を持つ。なぜなら、私たちは今、金がものを言う世界に生きているためだ。

正直さよりも金を追求する社会で彼女を非難することができるのだろうか?

23日に韓国誠実機構が発表した「誠実調査」によると、「金持ちになることと正直に生きることのうち、どちらが重要なのか」という質問に15~30歳の40.1%が金持ちを選んだ。正直な人生より金を選んだのだ。

また「嘘をついたり不祥事を起こす人とそうしない人のうち、人生で誰がもっと成功すると思うのか」という質問には、15~30歳の51.9%、31歳以上の40.7%が嘘をついて不祥事を起こす人を選んだ。「叔父の友人の紹介で良い会社(学校)に入れるならどうすると思うか」という質問にも、15~30歳の半分を越える54.0%が「応じる」と答えた。31歳以上は48.9%が肯定的に答えた。

これだけではない。韓国誠実機構が調査した別の調査によると、韓国の高校生10人のうち4人以上(44%)が「10億ウォン(約840万円)が手に入るならば過ちを犯して1年ほど刑務所に入ってもいい」と思うという結果が出た。中学生は28%、小学生も12%も良心よりも金を選んだ。

この調査結果によると、少なくとも10人に4人が「野王」のチュ・ダヘと同じ選択をする可能性があるという意味だ。正直に生きることよりも金を選び、10億ウォンを稼げるなら罪を犯して刑務所に約1年ほど入ることはできると思う社会で、果たして誰がチュ・ダヘに石を投げることができるのだろうか? あまりにも欲望に忠実なチュ・ダヘは、ある意味では純粋だと見ることもできる。少なくとも彼女は「貧乏な生活が嫌だから」と自身がハリュを捨てた理由を率直に話したのだから。

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それでもチュ・ダヘの選択が間違った理由

だが、いくら彼女の選択を理解するとしても、やはりチュ・ダヘの選択は間違っている。正直と良心より金を選択する人が40%を超え90%になったとしても、彼女の選択が間違っていることに変わりはない。彼女の選択で苦しむ人が出てきたためだ。

もし彼女がハリュの支援なしに自分で今の地位を獲得し、ひどい貧困から負った傷を克服するため欲望に忠実になったなら、少なくとも彼女を“悪女”と非難する人はいなかっただろう。なぜなら正当な方法で成功することは難しいということを、我々はあまりにもよく知っているためだ。貧困を乗り越えて成功に近づく彼女の姿で、逆にカタルシス(解放感)さえ感じたかもしれない。

ところが彼女の裏切りにより、害を被った人がいる。彼女のため自身の全てを捧げた夫のハリュと母が自分を捨てたかもしれないと思い、寒さに震えながら母を待っていた娘のウンビョルに彼女は癒すことができない傷を残したのだ。時によって“正直さより金”“良心よりも金”と選択することもできるが、その過程でまた被害者が出るのであれば話は違う。このドラマでハリュの存在が重要な理由だ。

二極化が進むほど、貧困を経験する人は増える。絶対的な貧困は減っても、相対的貧困はさらに増えた。しかし、誰もがチュ・ダヘと同じ選択をするわけにはいかない。成功のため誰かを傷つけ、正当な方法より違法な方法を動員することは、より早い道を選択することに他ならない。結局自身だけのためになる選択をするわけだ。そして彼女は言う。「私の娘は貧困を知らないでほしい」と。自己合理化の典型的な例だ。

ダヘに劣らずハリュも貧しかった。しかし、彼は一生懸命に仕事をしたおかげで少しながらダヘを助けることができた。金がもっと必要になってホストクラブで働いたが、それは自分の欲望のためではなくダヘのためだった。誰かに被害を与えるためではなく、助けるための選択だったのだ。

従って、ハリュが存在する限りダヘの選択は間違っていると言うしかない。ダヘがハリュを殺すしかない運命なのだ。ハリュが消えなければ彼女の選択は正当性を持たない。第1話に出たハリュの台詞のように、ダヘはハリュを殺すだろう。もちろん、ハリュの代わりに死ぬのは、その日登場したハリュの双子の兄になる可能性が高い。結局ハリュは生き続ける。ハリュが生きていたため、彼女の選択は間違っていた。これは、貧困が決して彼女にとって悪行の“免罪符”にはなれない理由だ。

記者 : パク・チャンウ