Vol.1 ― 「容疑者X」パン・ウンジン監督“何気なく行った行動が、一人の人生を動かすこともある”

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映画「容疑者X 天才数学者のアリバイ」が「007 スカイフォール」「王になった男」に続き、ボックスオフィス3位になり、観客動員数120万を突破した。映画のスコアだけでなく、映画内のイ・ヨウォンへのリュ・スンボムの愛に多くの観客が胸を打たれた。

天才数学者役を演じるリュ・スンボムは、イ・ヨウォンが突発的に犯した殺人まで緻密に計画し完璧な犯罪にすることで、イ・ヨウォンへの献身的な愛を示した。ますます乾き切っていく現代社会を生きる人々には、なかなかこのような愛を肌で感じることができないが、映画は手堅い感情線を緻密に練り上げ、観客の心を動かしている。「容疑者X 天才数学者のアリバイ」のパン・ウンジン監督に会い、話を聞いた。

―監督、映画「容疑者X 天才数学者のアリバイ」で描かれているような愛は可能ですか?一人の女性のために犯罪を解決できない様に完璧に設計し、その事件が明るみに出た時は自分が拘束されるように仕掛ける、そのようなシビアな愛が。

パン・ウンジン:地下鉄駅で誰かを助けようとして代わりに死を迎える人もいますし、人の命を救うために消防士が命を落とすこともあります。人間がある状況で選択することは、いくらでも可能だとおもいます。ソクゴ(リュ・スンボム)が人生を諦めようとする瞬間にファソン(イ・ヨウォン)が「何か手伝えることでも?」と近寄って来ました。ファソンが閉ざされたソクゴの心を開いたのです。もちろんファソンが意図していたことではありませんが、私達が何気なく行う好意的な行動が、一人の人生を動かすことだってあります。ソクゴは「君が僕の命を救ってくれた」と十分に考えられました。それからファソンを心に抱き始めるのです。

―ファソンの家で何か大きな事件が起こっていると思っても、ソクゴの性格からして隣の家のドアをノックするのは簡単ではなかったと思います。好きだとしても、どこからドアをノックする勇気が湧いたのでしょうか。

パン・ウンジン:ある瞬間ファソンが近寄って来ましたが、実際隣の部屋の人だといってもある関係を結べる明確な根拠がないのは事実です。どれほど慕っている女性でも、容易く近づくソクゴでもありません。しかし、ソクゴは耳に聞こえる音で殺人事件であることを直感します。おそらく、殺人事件という大事でなかったならば、声をかけたりドアをノックする勇気も出なかったと思います。その機会を悪用したわけではないけれど、ソクゴは自分にできることをやって女性を守りたかったのでしょう。

―シナリオを脚色(原作は東野圭吾の小説)しながら最も重点をおいた部分は何でしょうか。

パン・ウンジン:「こういう愛は可能か」という質問を自分に投げかけ、またそれが可能だと信じながらストーリーを展開させました。「周りを振り返って見た時、本当に私は誰かを、意図せず傷つけたことはないだろうか」「愛しているとオウム返しのように自分に言い聞かせているけれど、それは本当に愛なのだろうか」そんな質問をしながら、最終的には方法の差はあっても人のために温かくなり、勇気を得るような物語にしたかったです。

―映画はソクゴの犠牲による愛を見せていますね。“犠牲”というキーワードを説明するとどうなりますか。

パン・ウンジン:パンが嫌いな人が、好きな人のためにご飯の代わりにパンを食べるのも譲歩です。譲歩を増幅させると、小さな犠牲も生じます。犠牲は瞬間の選択だと思います。ある瞬間に愛や憐憫にハマれるのが人間だと思います。人間が追い込まれる理由は、色々あります。リュ・スンボムさんと私が話したのは、「ソクゴはソクゴのやり方で愛する」ということでした。多分ソクゴは自分では献身と思わなかったと思います。彼ができる愛し方ですね。

―リュ・スンボムの演技変身が話題になっていますが。

パン・ウンジン:感情の水位、ソクゴの癖と口調、言葉のトーンとスピード、口癖、衣装、ヘアスタイルに至るまで、一つ一つ話し合ってソクゴを作り上げて行きました。リュ・スンボムさんは「一度もやったことのない役なので、監督を信じてやります」と言ってくれました。最初からきめ細かく話し合ったんです。私も役者だったので、「俳優は私よりもずっと悩んでいる」ということは知っていました。苦しさがわかるので、多くの部分を聞き入れました。考え過ぎて悩んでいるようだと言われて、「好きにしてみて」と言ったこともあります。若い俳優なのに、実力が素晴らしいんです。一言二言言えば、「OK、分かりました」と言って、また他のものが出てくるんです。監督としては有難かったです。
写真=K&エンターテインメント
―リュ・スンボムはどんな俳優ですか。

パン・ウンジン:優しく、恥ずかしがり屋で、かつ鋭い理性の持ち主でもあります。抱いてあげたい俳優ですね。非常に愛らしく口が達者になる時もあれば、気難しくなる時もあるし、シャイで人見知りになってピリピリしている時もあります。信念も明確ですしね。映画に疲れ、傷ついたこともあって、俳優を続けるべきかどうかを悩んでいた時期に、シナリオを読んでこの映画に参加したそうです。

―観客には、この映画をどういうふうに見て欲しいですか。

パン・ウンジン:事件を追いかけていくと、その中に大きな愛があります。愛の偉大な力を呼び起こす機会がなかっただけ。誰にも心の真ん中に存在する、そんな愛があります。この俳優たちの姿を見るだけで、後悔はしないと思います。

記者 : イ・ジョンミン、チョ・ギョンイ