「嘆きのピエタ」チョ・ミンスが語る二つのキーワード…“女優とキム・ギドク”

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彼と彼女はいつもそこにいた…ただ、韓国映画界が声をかけなかっただけ

ベテランというのは、まさにこのような人を指す言葉ではないだろうか。ドラマで数え切れないほど母親役を演じてきた女優のチョ・ミンスがキム・ギドク監督の映画に出演することになったとき、多くの関係者は「果たして従来のイメージと変わることがあるのだろうか」と半信半疑になったことも事実だが、チョ・ミンスはその疑いを一気に覆した。

キム・ギドク監督との撮影は初めてだったが、チョ・ミンスはすぐに彼を把握し、彼の作業方法を理解していたものと見られる。映画「嘆きのピエタ」で見せた彼女の演技は、その事実を証明している。彼女の卓越した才能が発揮されたのだ。


1.中年女優の可能性……チョ・ミンスが見せてくれた

ベネチア国際映画祭に参加するために出国する直前に会ったとき、似たような話をしたのが彼女だった。金獅子賞の受賞後、戻ってきた彼女は複数の取材陣とのインタビューで「私には、見せたいものがもっとある。また別の私がいると思う」と再度話した。台本上では母親役を演じたが、自分では母親以上の複雑な姿を見せなければならないと思ったという。

「台本に出てこなかったまた別の姿を持って行きました。家族を壊したこいつ(強盗)を自身の味方にしなければならなかったけれど、それをどのように表現すべきかを考えながら自分の胸の中に憎しみの感情を入れていきました。それを捨てればすぐに分かってしまいますので。母親という名詞が武装解除してしまうから監督がそのように設定したのだと思いますが、映画を見ていると母親としてはできない行動があります。母親より女性としての行動を多くしました。強盗(イ・ジョンジン)を揺さぶるために必要なあらゆるものを動員したわけです。もし母の姿だけだったら、映画でそのような表情は出なかったと思います」

そのためだったのだろうか。チョ・ミンスは、映画のシーン一つ一つが大切だったと語った。コンセプトを決めて撮影に入ると、再撮影なしに速いスピードで進めてしまうのがキム・ギドク監督のスタイルだったため、自ら全てをチェックしなければならなかったという。キム・ギドクの映画に出演した俳優の中には、その作業過程が不便だと漏らす人もいたが、チョ・ミンスだけは忘れられない記憶だと回想していた。

「不便な部分が全くなかったわけではないです。そのようなことは撮影に入る前にあらかじめ十分話しました。監督の現場は、生放送でしょう。それで本格的な作業に入る前に一日くらいお互いに考えていることを話し合いました。『監督は、これがなぜこうなるのか理解できますか?これは、こういう意味ですか?』のような感じでした」

「私、これもできます」女優のチョ・ミンスが、キム・ギドク監督と作業をしながら抱いていた考えだったという。この言葉を変えてみると「韓国の中年女優の可能性に限りはない」という意味にあるのだろう。この辺で映画「10人の泥棒たち」のキム・ヘスクを思い浮かべることもできると思う。ドラマで母親役を演じてきた二人の女優が、監督の演出やストーリーの流れによってどれほど魅力的に変われるのかを証明した良い例だと言える。


2.チョ・ミンスが語るキム・ギドク「どちらでもいいわけにはいかないでしょう?理解するんです」

直接経験してみたキム・ギドク監督に対しチョ・ミンスは、監督としても、人間としても良いと好感を示した。監督の姿が可愛く見えることもあると言う彼女に、本当にそうなのか再度聞いてみた。世界の映画界で認められているが、私たちにはベールに包まれているキム・ギドクに対するチョ・ミンスの率直な見解が聞きたかった。この辺でチョ・ミンスの語り口を再現してみた方がいいと思う。

「いいですよ、可愛くて。しかし、良くはない!(笑)」

映画「嘆きのピエタ」も速いスピードで撮影された低予算の映画である。俳優とスタッフのギャランティーを除いた純制作費1億5000万ウォン(約1千50万円)でキム・ギドク監督は、約2週間ですべての撮影を終えた。10回の撮影で、一般の映画の3分の1、4分の1くらいだった。

「しっかりしなければなりません。あっという間に過ぎ去ってしまうから。自分のものはしっかりしなきゃ、2、3回やってみて駄目だと思ったら諦めることが監督のスタイルみたいです。『僕の頭の中で描いている姿が出そうにない』と言いましたが、そのとき『だったら、もっと私のものを逃してはいけない』という思いがよぎりました。

あの方のスタイルに私は染まったんです。最近は、俳優を配慮する撮影現場が多いと思います。監督には、それが全くないのです。自身の文章だけでも十分に表現できると思っているようです。ベテランなので、私は女優の役割だけを徹底しました。

あの方はさらに、後半の作業もないんですよ(笑) すべてが本番なので、私がしっかりチェックしました。これが不便に感じることもありましたが、私にとっては幸せでした。初めて接する馴染みのない作業が面白かったです」

ベテラン監督とベテラン女優の出会いが相乗効果を発揮した。チョ・ミンスだけを考えれば、最高の相性だったかもしれないが、他の俳優の立場から見ると、キム・ギドク監督の方法は依然としてなじみの薄い方法であったことは事実だ。女優のチョ・ミンスのようにすべての俳優がその作業方式を理解することができないためだ。

「それほど制作費をたくさん使う方でもないから、どうせならもう少し時間を与えてほしいと思いました。なぜなら、一回でうまくできる俳優もいるけれど、10回やってうまくなれる俳優もいますので。その意味で俳優にもっと機会を与えてくれればという気持ちはあります。でも、その作業の中では最善を尽くすべきだと思います」

インタビューの最後にチョ・ミンスは、キム・ギドクに対するある映画関係者の見解を紹介した。海外ではずっと認められてきたが、今になってようやく韓国国内で関心が注目され始めたキム・ギドク監督に対し、その映画関係者は「いつもその場にいたが、映画界が気付いていなかっただけ」と語ったという。

キム・ギドクの再発見ではなく、別の形の称賛だった。その映画関係者の称賛を女優のチョ・ミンスと韓国の中年女優にも回すというのはどうだろうか。いつも自身の位置を誠実に守っている韓国の中年女優がよりたくさんの作品で様々な姿を見せるときが早く来ることを期待している。

記者 : イ・ジョンミン、イ・ソンピル