【PEOPLE】チェ・ドンフンを構成する5つのキーワード

10asia |


チェ・ドンフン

「監督がすべての分野においてすべて上手くはできない。僕が上手くできることを一生懸命にやっていたら、今のような地位に立つようになった。僕は商業映画を作る監督だ。僕が作った映画が普遍的でありながらも、少しは変わった映画であってほしい。どうすれば観客がもっと好むか絶えず考える」―チェ・ドンフン「maxmovie」とのインタビューより。


ローレンス・サンダース

「盗聴(The Anderson Tapes)」という小説を書いた作家。
チェ・ドンフンのデビュー作「ビッグ・スウィンドル!」はこの作品からたくさんのインスピレーションを受けたという。また、チェ・ドンフンは子供のころ、「宝島」「三銃士」「三国遺事」などを楽しんで読み、20代になってからは「L.A.コンフィデンシャル」のような犯罪小説とハリウッド映画などを楽しんだ。映画を始める前から大衆的で面白いストーリーに惹かれていたといえる。子供のころから映画を楽しんでいた彼は、結局映画監督になることを決心し、補習塾の講師などで生計を立てながら映画界に飛び込むために努力する。しかし、シナリオ公募展に出品する度に落選、結局自分で2年をかけた、一つの作品のシナリオにすがった。その作品がまさに映画「ビッグ・スウィンドル!」であった。

イム・サンス

チェ・ドンフンを助監督として起用した監督。
映画「ティアーズ」「浮気な家族」などでチェ・ドンフンと共に撮影した。チェ・ドンフンは「ティアーズ」の撮影の間、映画の題材である10代の問題児700人あまりに会い、そういった過程を通じて「映画とは人に直接会いながら撮るものだ」ということを学んだ。実際に「ビッグ・スウィンドル!」はチェ・ドンフンが犯罪にかかわった様々な人たちに会って取材したものをもとにした。「聴診器を当てたら、診断できる」という台詞も、実際に詐欺師に言われた言葉だという。詐欺師に興味を持つことになったのも、チェ・ドンフンが実際に1800万ウォン(約124万円)の詐欺にあった経験からだった。犯罪物の娯楽的な面白さに、韓国でしっかりと根付いている題材が作品にそのまま溶け込み、「ビッグ・スウィンドル!」は観客数200万人を突破した。やるべきことを正確に分かっていて、その世界を徹底的に掘り下げた新人監督の侮れないデビュー作。

ペク・ユンシク

チェ・ドンフンが演出した映画「ビッグ・スウィンドル!」「タチャ イカサマ師」「チョン・ウチ 時空道士」に出演した俳優。
チェ・ドンフンはペク・ユンシクについて「キャラクターを引っ張っていく戦略があり、全然度が過ぎないけど、後から見ると、そのすべてを自分の中に封じ込めていた感じがする」と話したことがある。ペク・ユンシクは「ビッグ・スウィンドル!」で主人公と協力と葛藤を繰り返す詐欺の仕掛け人であり、「タチャ イカサマ師」では主人公にギャンブルに対する動機を用意する師匠のようなキャラクターを演じて作品の中軸となっている。特に、「ビッグ・スウィンドル!」に出演する犯罪の仕掛け人と主人公が対立と協力を繰り返す構図は、「タチャ イカサマ師」と「10人の泥棒たち」でも同様に繋がる。犯罪現場の中心で活躍するキャラクターとその裏で状況をコントロールする仕掛け人を軸にして、色々なキャラクターの頭脳戦が絡んでストーリーが予想できない展開に流れていくのは「チョン・ウチ 時空道士」を除いたチェ・ドンフンの作品の共通点だ。チェ・ドンフンは「シンフォニック・ロック、アート・ロックが好きだが、こうした構成は同じものを変奏するのではなくて、それぞれ違う独立したもので音楽を作っていく。この映画もそう作りたかった」と話した。

キム・ヘス

「タチャ イカサマ師」と「10人の泥棒たち」に出演した女優。
「タチャ イカサマ師」で賭場の仕掛け人であり、主人公コニのヒストリーをずっと説明するナレーションを務める。ナレーションを通じてコニのヒストリーは映画の前半から速いスピードで進み、編集でコニの成長史と現在の賭博場が交差する。それだけ映画はとても速く、このスピードの中でキャラクターは感情をさらけ出すよりはカッコいいスタイルで記憶される。その分、キム・ヘスのように強烈なイメージを持つ女優はチェ・ドンフンの映画によく似合う。チェ・ドンフンは映画で新派的な感情を取り除き、スタイルを入れて興行に成功した珍しい韓国の映画監督だ。実際に、彼は映画が「人物を整えて、その人たちが走れるようにドラマというエンジンを付ける」決勝戦の一本勝負と同じだと話し、激情的なドラマは書かない。だからこそ新派を入れようとしない。「芸術的な自意識」も、「有名映画祭を回りたい欲」もなく「めちゃくちゃ面白い」映画を作りたいという、面白い映画だけについては確かなこだわりがある監督。

Leessang

ケリとキルで構成された2人組。チェ・ドンフンが彼らのヒット曲「顔は笑っていても」を演出した。
ミュージックビデオに出演したリュ・スンボムからLeessang(リッサン)を紹介されたチェ・ドンフンは、Leessangの実際の経験談をもとにミュージックビデオを作った。そのためか、「顔は笑っていても」は両手にバラの花とレンガを持ったリュ・スンボムの姿のように強烈なイメージを残すとともに、1人の男性の愛と失恋の感情を強烈に盛り込んだ。いつもクールそうなチェ・ドンフンの作品の中で、最も感情的なエネルギーが湧き上がった作品。

カン・ドンウォン

チェ・ドンフンが演出した「チョン・ウチ 時空道士」の主演。
編集で切り出したものだけで150シーンを超える「チョン・ウチ 時空道士」は、チェ・ドンフンの前作と似ているようで違っていた。カン・ドンウォンとキム・ユンソクの対立の構図は「タチャ イカサマ師」のチョ・スンウとキム・ユンソクを連想させ、ペク・ユンシクは「タチャ イカサマ師」と同じように「チョン・ウチ 時空道士」でも主人公の師匠だ。一方、題材は犯罪物ではなくファンタジーであり、様々なキャラクターたちが複雑に絡み合う頭脳戦はなくなった。そして、速いテンポでの編集の代わりに、ゆったりとしたテンポの中で150億ウォン(約10億)の制作費を投入して作った各種の特殊効果があった。それほどチェ・ドンフンにとっては「前作とは違うスタイルの映画」であるが、前作のぎっしりと詰まった物語の代わりに盛り込まれた大規模なアクションのほとんどは、都心ではなく閑静な背景で行われ、余白を与えた。また、2つのキャラクターが対立する構図に集中しながらも、なかなか感情をさらけ出さないキャラクター描写は、映画を引っ張っていくエネルギーを完全に満たすには至らなかった。新たな試みもして、観客数600万人も超えたが、どこか物足りなかった。その分、チェ・ドンフンは重みを持つ興行監督になり、自分の力量を示すことを求められた。

アン・スヒョン

チェ・ドンフンの妻。「10人の泥棒たち」のプロデューサーでもある。
2人は結婚当時、アン・スヒョンが参加した映画「君は僕の運命」を招待状の表紙に書いて、“3年間最高のいい友達として過ごし、1年間は下心を秘めた友達”として過ごしながら恋愛した話をシナリオのように明かした。「10人の泥棒たち」はこんな2人が映画会社ケイパーフィルムを設立して作った初めての作品で、「チョン・ウチ 時空道士」以降の2人の選択がそのまま表れている。チェ・ドンフンは再び犯罪物の世界に戻って、「タチャ イカサマ師」のように過去と現在を急ピッチで行き来しながら、インパクトのある現在の事件とキャラクターの過去の話を上手に見せてくれた。また、「チョン・ウチ 時空道士」で試みた様々な特殊効果の経験を生かしながら、マカオと香港、そして釜山(プサン)に繋がる現実的な背景の上にアクションを合体した。映画の前半から華やかな目の保養で攻め込みながらも、キャラクターそれぞれのストーリーを見逃さない編集テクニックは今となってはチェ・ドンフンならではの手法だといってもいいくらいだ。そして、「10人の泥棒たち」は観客数1000万人を突破した。

チョン・ジヒョン

「10人の泥棒たち」に出演した女優。
はばかりなく悪口を言って、一緒に盗みをしながらもどこへ逃げるか分からないチョン・ジヒョンのキャラクターで「10人の泥棒たち」はさらに多彩になった。「キャスティングが映画の半分」と信じているチェ・ドンフンはキャスティングしたい俳優を想像して、その人に似合う台詞が何かを探すという。それほど彼は従来の俳優のイメージを分析し、従来のイメージに類似しながらも違う感じを探し出すことに優れている。そんな理由でキム・ヘスは「タチャ イカサマ師」で従来のセクシーなイメージを見せながらもさらに強烈な姿を見せ、チョン・ジヒョンは「猟奇的な彼女」を連想させる口調を使いながらもさらに新たな雰囲気を加えることができた。チェ・ドンフンはベテランであるほど、イメージがはっきりしているスターであるほど、彼らを最も効果的に映画に溶け込ませる。与えられた予算内で、現実的な空間を背景に、お金をかけた感じがするアクションを一連のスターたちのよい演技を通じて確実に結果を出す。色んな面で韓国の商業映画、または韓国型ブロックバスターを最も上手く撮れる監督。

キム・ユンソク

チェ・ドンフンの全作品に出演した俳優。
チェ・ドンフンが「画面を掌握する能力を持っている」と言った彼は、「ビッグ・スウィンドル!」での助演を始め、「10人の泥棒たち」では無数のスターたちの間で実質的な主演となった。どんな場面であれ、表にさらけ出す以上の何かがあるようなキム・ユンソクの表情は、本心を隠したキャラクターたちが交わるチェ・ドンフンの作品に一番合う。また、「10人の泥棒たち」で“仕掛け人”の役割を務めた彼が作品の中軸となり、これによって映画がさらに複雑な遊び場となったのは、チェ・ドンフンが見せてくれた変化だった。「10人の泥棒たち」はチェ・ドンフンが一番上手くできることをより大きな規模で、より上手く作り上げた作品だといえる。だが、「10人の泥棒たち」に至っては事件の背景が海外に移り、釜山(プサン)はキャラクターたちが定住して暮らすところではなくて、アクションが行われる場所となった。そして、頭脳戦で展開された映画は、いつの間にか愛憎が交差する感情が中心に置かれる。「ビッグ・スウィンドル!」と比べると、「10人の泥棒たち」は韓国の現実を反映した部分は一段と減り、“クール”な代わりに多少“新派”に近いストーリーが登場した。チェ・ドンフンは人々が慣れた自分の特徴を通じてより派手で、より負担なく、より多くの人々が簡単に没頭できる映画を作った。観客数1000万人という結果は、チェ・ドンフンがどれだけ自分の能力を正確に判断し、今大衆に何を見せるべきかを知っているという証拠だ。しかし、同時にチェ・ドンフンのスタイルがどこか変化しているという兆しを見せたかも知れない。彼の変化は自分の新たな目標のためなのか、それともより大衆的な作品のためなのか。やっと4作品を撮った映画監督。それにもかかわらず、「チョン・ウチ 時空道士」を除いて一貫した構成の中で人々を虜にした映画の仕掛け人。彼の映画は今後どんなふうに展開されるのだろうか。

記者 : カン・ミョンソク、翻訳 : ハン・アルム