「10人の泥棒たち」キム・ヘスク、最近の作品で続いたキスシーンは“ラッキー”

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観客動員数1000万人突破が予想されている映画「10人の泥棒たち」(監督:チェ・ドンフン、制作:Caper Film)で、唯一“観客の涙”を盗んだ本当の泥棒がいた。

キム・ユンソク、キム・ヘス、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン、キム・スヒョン、オ・ダルスまで。名前だけを聞いても圧倒されるような豪華なラインナップだが、ここでは彼らは置いておくことにしよう。本当の泥棒は、“国民の母”ことキム・ヘスク(57)だ。

香港のスター、サイモン・ヤムと炎のようなロマンスを演じたキム・ヘスクは、観客の涙を完璧に盗んだ。韓国内外のトップスターが総出演した最高の娯楽映画で涙を盗むとは。キム・ヘスクはそんな意味で“裏切り者”でもあった。

「10人の泥棒たち」の恩恵を受けたのはチョン・ジヒョン?キム・ヘスクは輝いた星

「10人の泥棒たち」で演技派専門の泥棒、“ガム”を熱演したキム・ヘスクは、変身の鬼才ならではの実力とオーラを見せつけた。これまで数多くの母親役を演じてきたキム・ヘスクだが、ここでもガムは母という設定を持っている。しかし、今回は少し違う母だ。母である前に、照れている一人の女性のキム・ヘスクであった。

「10人の泥棒たち」の大ヒットでもっとも大きな恩恵を受けた出演者として、一般的にはチョン・ジヒョンが挙げられる。しかし、キム・ヘスクもチョン・ジヒョンに負けないぐらいキラキラと輝いていた。観客に新鮮な衝撃を与えたキム・ヘスク本人も、最近人気を肌で感じていると喜んだ。

「『10人の泥棒たち』には自信があったけど、思った以上の反響だと思う。最近、街を歩いていると『ガムだ』『ガム、カッコよかった』と、喜んでもらっている。映画に関する挨拶を受けるたびに、『本当に多くの方が見てくださったんだ』と実感する。この映画が『すごく面白くて最高だ』というのは、あまりにも傲慢だろう。ただ、韓国の映画がこれほどのスケールで制作されることは珍しいので、その分観客にも関心を持ってもらいたい」

カッコいいキャラクターと呼ばれているガムは、どんな女性なのだろうか。劇中での彼女は後輩の泥棒たちに追い越されるばかりだ。酒がなければ、一日も眠れない。一言で言うと、憂鬱な人生の後半を迎えた中年女性を代表する人物だ。離婚した娘のせいで頭が痛い。ガムの願いは、大きくはない。ダイヤモンド“太陽の涙”を最後に泥棒から引退したい。胸を張って税金を払いたい。それくらいだ。ここに一つ欲を出せば、最後の恋愛を夢見るか弱い女性だ。

キム・ヘスクはガムについて「人の生きる人生をそのまま表現したキャラクター。10人の泥棒の中で、もっとも人間味溢れるキャラクターだったと思う。こんなガムを、愛さずにはいられなかった。この女性は本当に夢を持っている美しい人」とキャラクターを説明した。

また「チェ・ドンフン監督が作った人物。根本は皆“人間”だという設定で作られている。ガムは自分の職業が泥棒である一人の人間だ。演技で人を騙し、泥棒をするのがこの女性の生涯の職業となったのだ。平凡でありたかったが、平凡ではない人生を生きることになった。ペプシ(キム・ヘス)とガムが部屋で会話をするシーンがある。そのシーンを演じながら、私は心で泣いていた。ガムの人生が、あまりにも悲しかったからだ。普通ならそのシーンを演じながら泣いたと思うけど、当時は泣かなかった。だって、私はガムだから……」と撮影当時を振り返った。

共に死を迎えたチェンとガム、最高の恋愛

50代中盤の恋愛は、いつからこんなにも美しかったんだろう。観客の心を虜にしたキム・ヘスクの自然な恋愛の演技は、「10人の泥棒たち」の観戦ポイントの一つだ。チェン(サイモン・ヤム)とガムはチームを組み、作戦に参加するが、二人の間には予期せぬ恋という感情が芽生える。

これは映画の中でもとても予想外の状況なので、笑いたくなるかもしれない。しかし、そこにはただおかしいという言葉では片付けることができない中年だけの真剣さがあった。ガムは、決して笑える人ではない。

キム・ヘスクは「50代中盤の恋愛というのは、ある意味すごく悲しい話でもある。私もそうはできないから。彼らがどんなに『愛』だと叫んでも、社会は偏見のある見方で解釈してしまう。そんな偏見を持っている人々に、見せつけたかった。チェンとガムの恋愛は最高の愛であると思いながら撮影に臨んだ」と伝えた。

ガムこそが愛する人と死ぬまで一緒にいたいという、恋愛のファンタジーを満たしてくれた人物だということだった。キム・ヘスクのおかげで、50代の恋愛を羨むような不思議な感情を感じることができた。

成熟した愛に感動したというキム・ヘスクは、ガムとチェンのキスシーンをロマンチックなシーンとして挙げた。“太陽の涙”を盗むためにホテルのスイートルームに潜伏した二人は、突然妙な感情の変化を感じる。「10人の泥棒たち」のキスシーンの撮影で胸がドキドキしてしまったというキム・ヘスクは、キスシーンについて率直に打ち明けた。

「私は最近すごくラッキーみたい。総合編成チャンネルのTV朝鮮の『コ・ボンシルおばさんを救え』でもチョン・ホジンさんとキスシーンがあった。映画『ビバ!ラブ』でも濃厚なスキンシップがあった。こういうのを見ると、女優として演じられる演技の幅がとても広くなったと感じる。母もキスができるという設定自体が、いつの間にか観客にも受け入れられるようになったみたい。『10人の泥棒たち』の撮影を控え、台本を読んでいたときはアドリブまで考えておいたけど、いざキスシーンの撮影が始まると、何もできなかった。撮影に入り、ガムに溶け込むと、自分も知らないうちにチェンの感情を感じるようになり、涙が出そうになった。全身でチェンを感じながら照れていたし、その瞬間のガムは心からドキドキしていた」


32回のNGを出した完璧主義者……母親役に責任を感じる

1974年、MBCの第7期公開採用タレントでデビューした演技歴38年目のキム・ヘスク。この女優は、うっとうしくなるほど自分の演技を分析し、悩む。キム・ヘスクは演技においてだけは完璧主義者だ。完璧な演技をしないと耐えられないというキム・ヘスクは、一つのエピソードを聞かせてくれた。

「1994年、SBSで放送されたキム・スヒョン脚本家の『お別れ』という作品に出演したことがある。多分、私の人生の中でもっとも多いNGを出した作品ではないかと思う。一つのシーンを32回も撮った。適当に妥協しても良いシーンだったが、絶対に妥協することはできなかった。プライベートでの私はすごくサバサバとしていて、気難しくない方なのに、仕事においては完璧を求めるので、私も疲れることがある。『なぜ妥協をせず、苦労をするのか』と思っても、それはどうすることもできない私の性分であることが分かった。自分に厳しくしなかったら、今のキム・ヘスクはいなかったと思う」

完璧主義者らしく、キム・ヘスクは毎回の作品で完璧な本物の演技を見せてくれた。“国民の母”というニックネームを持っているキム・ヘスクは、毎作品で異なる母親のキャラクターを演じ、観客を満足させてきた。キム・ヘスクの演じた母親のキャラクターの中で一番深い印象を残したのは、映画「渇き」(監督:パク・チャヌク)のラ夫人役だ。同映画でキム・ヘスクは椅子に座り、何の台詞もなく目を瞬くだけのキャラクターを演じきり、133分の間、観客を虜にした。

「10人の泥棒たち」のガムも、キム・ヘスクがこれまで演じてきた母親とは違う。キム・ヘスクは「演技への情熱と渇望がある役者として、映画で思いっきりキャラクターを表現できるところがいい。私にできるのは母親役だけど、母親には数万のキャラクターがあり、それを演じ分けられる女優になりたい」と述べた。

また「“国民の母”になってから、女優と呼ばれることが少なくなった。でも、『10人の泥棒たち』を通じて再び女優と呼ばれることとなり、感謝しているし、幸せに感じる。“国民の母”はすごく大変で、また大事なニックネーム。この世でもっとも偉大であり、演じにくいのが母だと思う。母の持っている長い歳月と感情を、簡単に演技で表現するというのは恐ろしいことでもある」と打ち明けた。

「母という素晴らしい人を、私という小さな役者が演じるということについて、いつも悩んでいた。『この素晴らしさを、私は上手く演じているのだろうか』と疑問に感じたりもした。世の中のあらゆる母を演じて見たいという願いが、今年から怖く感じられるようになった。責任を感じた」

大胆なプロの役者キム・ヘスクが演技を怖がるということに驚いた。しかし、キム・ヘスクの心配は無用だった。キム・ヘスクは「10人の泥棒たち」のガムを通じて母という人物を美しい女性に作り上げるという手本を見せた。

「母は、母親という理由で犠牲を強いられ、自分自身は存在しない人です。もちろん、それが当然なのかもしれません。私自身も、ガムのような中年の恋愛は贅沢だと思っていました。ですが、『10人の泥棒たち』を撮影しながらガムに溶け込むと、私自身の考えも変わってきました。私は母である前に一人の女性だったんです。恋愛というのは、誰でも胸のどこかにある大きなテーマでしょう?『10人の泥棒たち』を通じて多くの方々がその解答を見つけてほしいです。多分、涙が流れるでしょう」

記者 : チョ・ジヨン、写真 : キム・ヨンドク