「ファントム」と“韓国の現実”のシンクロとは?
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ドラマに置き換えられる社会的な事件…スピーディーな展開で視聴者は釘付け
SBSドラマ「根の深い木~世宗(セジョン)大王の誓い~」以来、久しぶりに欠かさず見るドラマが出来た。SBS水木ドラマ「ファントム」だ。最初は議論の中心となっていたイ・ヨニの不自然な演技とやや古いような画面で興味が沸かなかったが、偶然第2~3話を見て、このドラマを第1話からかしこまって見直さないわけにはいかなかった。それほど「ファントム」は魅力的で中毒的だった。一体ドラマ「ファントム」の魅力は何だろうか。写真=SBS
スピーディーな展開とどんでん返し
ドラマ「ファントム」の一番の特徴は、ドラマの構成形式だ。キム・ウニ脚本家は、彼女の前作「サイン」のように「ファントム」の構造を1つの大きなストーリーの中に複数のストーリーがあるオムニバス形式で構成したが、今回もその小さいストーリー同士が密につながって、1つの大きなストーリーを作り出している。したがって、ドラマ「ファントム」の展開は非常にスピーディーだ。オムニバス形式というのがそれぞれのエピソードの完結を前提とする以上、「ファントム」は20話分の他のドラマより展開が速くなるしかない。通常のドラマなら問題解決まで最低でも5話は必要だが、「ファントム」はそのような視聴者の固定観念を破り1~2話で事件を終了したのだ。
多くの人は「ファントム」を見て、どんでん返しが続くと言うが、これは決してストーリー上のどんでん返しのみを意味するものではない。息つく間もないスピードでストーリーが展開され、視聴者が「ファントム」の自然な展開さえもどんでん返しとして受け止めることが発生するのだ。
例えば、ドラマは第1~2話のの時、キム・ウヒョンの秘密が隠された動画を暗示するかのように見せて、突然そのシーンを公開してしまうことで視聴者の予想を超えてしまう。他のドラマならその動画を探すのに2~3話はかかり、それをめぐるエピソードだけでも2~3話は必要だが、「ファントム」はそのような過程をすべて省き、動画を公開してその裏に隠されたものに集中させ、視聴者を引き込む。
もちろん、このようなスピーディーな展開が視聴者に1つのどんでん返しとして認識されるためには、事件が水が流れるように自然につながっていなければならない。それぞれのエピソードが分離されていると、どんでん返しはおろか、まとまりのない印象しか与えられない。幸いなことに「ファントム」はまだ論理の脱線なくストーリーが展開されている。ところどころに隠しておいた伏線がドラマの論理を補っている。そのため、多くの人が「ファントム」の魅力にとりつかれているのだ。
「ファントム」のもう1つの魅力、リアリティ
スピーディーな展開以外にも、ドラマ「ファントム」が持つもう1つの魅力は、リアリティさだ。これは脚本家の前作「サイン」と比べて一番大きい違いだが、「ファントム」は、現在韓国社会で大きな話題となっている案件を正面から取り扱うことで、ドラマの展開上存在するしかない不足した論理を補っている。最初のエピソードでは、芸能人の枕営業の問題を取り扱い、チャン・ジャヨン事件を連想させた。またDDOS事件(標的となるサーバーのサービスを不能にする攻撃)についても取り上げ、社会の争点を想起させている。特に、第5~6話で取り扱ったDDoS事件は、見るものの手に汗を握らせた。とにかく北朝鮮の仕業だと主張したり、酒を飲んだ20代が偶発的に行ったものだと発表し、DDoS事態を笑いものにした検察の発表とは違い、ドラマではDDoS攻撃が最高の頭脳集団が特定の目的を持って組織的に動いてこそ出来るということを見せてくれたためだ。
こんなに大変なDDoS攻撃なのに、現実の中の捜査機関は、情けなくもハードディスク1つを押収しただけでDDoS攻撃の犯人を見つけると言い張る。ドラマから推測すると、DDoS攻撃の犯人を捕まえるのは、意志の問題のように思える。
しかも「ファントム」は、そのDDoS攻撃を1つのトリックとして配置し、視聴者をさらに感嘆させた。本当の目標のためにDDoS攻撃に見せかけるという設定は、すでに「ナコムス(政治批判的なウェブログ)」で多くの人が聞いたことのある仮定であるためだ。もちろん、検察側はDDoS攻撃が存在しただけと言い張っているが……。
また、「ファントム」のハッカー組織が計画していた“スタックスネット”も、劇的なリアリティさを増した。“発電所、空港、鉄道などの施設を破壊する目的で作られたコンピュータウイルス”という字幕が必要なほど馴染みのない概念だったが、人々はそれと似たような、とんでもない状況を経験しているためだ。
2011年9月15日に韓国で起きた大停電。政府はこれに対して急激な電力需要の増加を原因に挙げたが、これは卑怯な言い訳に過ぎない。韓国電力に天下りではなく、きちんとした社長さえいたなら、そのようなとんでもないことは起きなかったはずだった。結局「ファントム」で全国の電力を断つマルウェア(悪意のある不正ソフトウェアやプログラム)は、現実の中の天下り人事のような非合理的なことを意味するのだ。
このようにドラマ「ファントム」の人気は現実とつシンクロしている。目の前で起きている呆れた事態に対して、まったく説得力のない解明だけが発表され、そして理屈に合わない、押し付けの報道が続くこと、それはドラマ「ファントム」の人気を高めるもっとも重要な要因なはずだ。ここ4年間国民たちはゴリ押し的な辻褄の合わない主張に疲れている。
ドラマ「ファントム」は、これから民間人査察を取り扱うという。制作陣の勇気に拍手を送るとともに、多くの人がこのドラマに注目してほしい。私たちの現実はドラマよりドラマティックであり情けないためだ。
記者 : イ・ヒドン