【PEOPLE】ぺ・ドゥナを構成する5つのキーワード

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ぺ・ドゥナ

人間であり人間ではない。少女であり少女ではない。人形であり人形ではない。誰もが知っているが誰もが定義づけることの出来なかった女優。その女優が歩んでいる自分だけの道。


キム・ファヨン

ぺ・ドゥナの母親。ぺ・ドゥナが映画「ほえる犬は噛まない」で主人公の候補に上がったとき、当時の制作者に対し、「私が20年をかけた企画商品。自分を信じてキャスティングしてくれ」と語ったことで有名。小学生の娘に冬でもミニスカートを履かせ、「寒くてもガマン。キレイになるにはそれなりの努力が必要なのよ」と言い聞かせ、食事の際の取り皿ひとつをとっても、きれいな物を使うべきだと教えたというからそれも納得。ぺ・ドゥナは子供のころスピーチ大会で一言も話せなかったほどおとなしい子だったと言う。しかし有名な演劇女優である母親と様々な公演を見ながら教養を育み、母親が映画「三人の友達」に出演したのを見て「こんな映画もあるんだ」と様々な映画への好奇心を抱いたという。子供のころ、消しゴムをたくさん集めていて、それを集め終わると友達に全部分け与えるなど、何かに深く集中したかと思うとある時点でスパッと止める性格をしており、他の人とは違う面があったと言う。デビュー当時から何かと目立ったのも偶然ではない。

貞子

日本映画「リング」の韓国版リメイク作品「リング・ウィルス」でのぺ・ドゥナの役。170.5cmの身長と痩せ型のぺ・ドゥナは路上でスカウトされており、モデルとして活動している最中「リング・ウィルス」で映画にデビューした。ぺ・ドゥナの独特の雰囲気は幽霊の貞子という非現実的な存在を表現するのに打ってつけであった。ホラードラマのKBS「RNA」でも似たような役をしているし、KBS「学校」では教室の片隅で静かにたたずむアウトサイダー役であった。X世代(1960~1974年の間に生まれた世代)やN世代(90年代末から2000年代初めに生まれた世代)など、若者にいろいろと世代という言葉を付けていたその時代、ぺ・ドゥナは従来の世代が理解することも近づくことも難しかった独特の雰囲気を持つ若者世代の代表格だった。だが、ぺ・ドゥナは当時「私はキャラクター商品です。『とにかく、なにもかも嫌い』というほど反抗的なわけではありません」と語るなど自らのイメージに否定的な感情を表したりした。

イ・ヨウォン

映画「子猫をお願い」で共演した女優。独特で個性の強いキャラクターとされていたぺ・ドゥナは「子猫をお願い」と「ほえる犬は噛まない」で平凡な日常を生きる20代の女性を演じた。だが「子猫をお願い」のキャラクターは将来の見えない青春を生きながらも友達を観察しているようなポジションに立っているが、障害を持つ患者のためにボランティアをしていた。「ほえる犬は噛まない」のキャラクターは平凡な団地の管理事務所で職員をしながらも一匹の犬のために苦労を厭わなかった。世の中の普通の20代でありながらも驚くほど純粋、しかし他人とは容易に混ざらない。こうしたユニークなキャラクターは、ぺ・ドゥナが現実の役を消化するつなぎ目となり、彼女はそうやって少しずつ役の幅を広げていった。

ポン・ジュノ

「ほえる犬は噛まない」の監督。オーディションで積極的過ぎた他の俳優とは違い、居眠りしていたぺ・ドゥナを見てキャスティングしたのは有名な話。ポン・ジュノは撮影をしているときに、あくびをする姿までいちいち指示を出すほど細かい演出をした。おかげで日本の映画雑誌「キネマ旬報」では、ぺ・ドゥナが「八月のクリスマス」に出演したシム・ウナに次ぐ演技力のある女優と評価された。「ほえる犬は噛まない」でぺ・ドゥナはより多様な表情を見せてくれたし、自分だけの独特の雰囲気をコメディ演技に融合する方法を見つけた。また当時の撮影でフィルムの値段を心配する声が多いのを聞き、NGをなるべく出さないようにする習慣を身に着けたと言う。その後ポン・ジュノ監督は、「日本に若い天才監督がいる」と山下敦弘監督について話し、数年後ぺ・ドゥナは山下敦弘監督の「リンダリンダリンダ」に出演した。若者の象徴から自らのスタイルを持つ役者へと、確かな成長を果たしたターニングポイントである。

パク・チャヌク

映画「復讐者に憐れみを」の監督。「復讐者に憐れみを」は大衆受けしないストーリーの展開、独特のユーモア、残酷な描写が三位一体となっており、散々な成績で失敗した。しかしパク・チャヌク監督が世界的に有名になるに従って、傑作として再評価されている。この奇妙な作品を通してぺ・ドゥナは、何故彼女がポン・ジュノとパク・チャヌクの双方から愛されているのかという理由を見せてくれる。過激な社会運動をしながら子供を誘拐し、それを“いい誘拐”と語るのが不自然でないほど純粋で、露出のある演技をしながらもセクシーと言うより純粋さが表れるキャラクターは、彼女だから表現することが出来たと言える。自らを「どうせ他の俳優とはスタイルが違うんだし演技する方法やアピールする方法も違う」と語る女優が、自分の個性をより際立てて見せる方法だと言える。

カン・ドンウォン

MBC「威風堂々な彼女」で共演した俳優。カン・ドンウォンは彼女と出会ってから脚本を検討するとき「これをやったらドゥナさんがガッカリするかな?」と言うほどぺ・ドゥナを信頼していると言う。「復讐者に憐れみを」の後でぺ・ドゥナは地下鉄テロを題材とした「TUBE」に出演した。しかし脚本、監督、俳優、現場の雰囲気、カット数のすべてが今までの経験と違っていた大作娯楽映画は、彼女の個性を作品に吹き込む代わりに映画が必要とした恋愛要素を彼女に期待した。その反面同じ頃の作品「威風堂々な彼女」は、ぺ・ドゥナの強い個性と視聴者との接点を捜し出した。現実の厳しさなどにも色あせないぺ・ドゥナだけの魅力は、あらゆる苦難を経験しても純粋さを失わないキャラクターの魅力を最大限に引き出し、このドラマと上手くマッチした。また母親から「あなたの過剰な演技は他の俳優の普通の演技くらいのトーン」と言うほど映画で感情を抑えていた彼女は、ドラマでより積極的に感情を表現し人々へアピールした。

ソン・ガンホ

「復讐者に憐れみを」に続き「グエムル-漢江の怪物-」で共演した俳優。ソン・ガンホはぺ・ドゥナが「TUBE」を撮影するとき、「もし今まで君の出演した映画が売り上げ成績の面で芳しくなかったから、大作娯楽映画に出演しようと思ったのなら止めた方がいい」とアドバイスしてくれた。一時期作品選択の基準で悩んでいたぺ・ドゥナは、作品評価と売り上げ成績の両面ですべて成功した「グエムル-漢江の怪物-」から気を楽に持つようになった。「春の日のクマは好きですか?」を撮ってから、「私の第1期は本当に終わり」と思っていたぺ・ドゥナは、「グエムル-漢江の怪物-」の始まりから終わりまで粗末な姿で登場しているが、怪物へ矢を向ける瞬間だけは現実を超越した女神のように落ち着いていて美しい。少女を捜しに行く家族の中に完璧に溶け込んでいながら、自分のオーラを放つべき瞬間を正確に知っていて、ぺ・ドゥナのイメージと演技力がひとつになった瞬間。つまり“潜在能力”が弾ける直前だ。

是枝裕和

映画「空気人形」の監督。ぺ・ドゥナは魂を得た空気人形を演じ、日本アカデミー賞を始め様々な映画祭で女優賞を受賞した。やる気のなさそうな外見と心を満たす演技を追及するぺ・ドゥナは「空気人形」で喜怒哀楽はもちろん、表情すらほとんどなく、自分が演じる前は世界に存在すらしなかったような存在を完璧に表現した。映画の前半では完全に青白い人形のようだったのが時間の流れと共に微妙に活気を帯び、少しずつ人間の感情を示す空気人形の変化を演じることは、驚くほど感情を抑えながらも表現するという、俳優としての極みと言えるだろう。生まれたての赤ちゃんを思い浮かべるほど役に完全に同化しながらも撮影を終え、自らを「スクリーンで見ると誠意の見えない演技だ」と言うほど控えめな演技である。ぺ・ドゥナが多くの映画の中で世間のど真ん中にいる観察者でありながら最も注目される存在のように思えるのは、彼女自身がまったく違う存在として生きているからかもしれない。「ドゥナのロンドン遊び」から始まる彼女の旅行写真集でも、ぺ・ドゥナは観察者の役割を果たす写真作家である。だがぺ・ドゥナのすべての行動は“ドゥナ”という言葉をつけるのがふさわしいほど自分だけのスタイルとなっており、人々からも注目を集めている。

チョン・ジウ

ぺ・ドゥナが出演したSBS「完璧な恋人に出会う方法」とMBC「グロリア」を書いた脚本家。KBS「ドラゴン桜」と「グロリア」は前作の「空気人形」とはまったく違う作品。ぺ・ドゥナはそれまでのドラマがそうであったように現実の中でも自分だけの基準を持って頼もしく生きている女性を演じた。また「ドラゴン桜」ではキム・スロやユ・スンホなどがより引き立つように自分の役割に必要な分だけの存在感を見せてくれた。映画で「ワンシーンでも本当にやりたくないシーンがあれば作品自体の出演を諦める」のとは違い、ドラマではより余裕のある選択をする。「頑張っているのを見つかってしまうのがイヤ」と言う彼女特有の演技への姿勢が、映画では「空気人形」のような作品で見える独特の存在感として表れているとすれば、ドラマでは純粋、または少々ボーッとしているキャラクターと出会って人間的な魅力として表現される。MBC「心ふるわせて」での感情を抑えた静かな演技は、「グロリア」では流れにより自主的に感情を表現するものへと変わっている。映画では存在感を示す一方、ドラマでは涙ものの演技も可能となったのである。デビュー10年余りにして、ぺ・ドゥナは自分の存在感を作品ごとに違った方法で変えることが出来る方法を学んだのだ。

ハ・ジウォン

映画「ハナ~奇跡の46日間~」で共演した女優。カン・ドンウォン、ヒョンビン、イ・スンギなどと作品を共にした。しかしハ・ジウォンと最も似合う俳優はぺ・ドゥナと言っても過言ではない。韓国の有名な卓球選手であるヒョン・ジョンファを演じるハ・ジウォンが作品全体に渡り元気に飛び回っている間、ぺ・ドゥナは大した表情の変化もなく自分の位置を守っているように見える。しかしぺ・ドゥナは感情を抑えた表情と動作の中で北朝鮮の卓球選手リ・ブンヒの人生を縮約的に表現している。韓国と北朝鮮の単一チームが結成され、それぞれの国の期待を背負った女性。生まれながらにして何一つ自由が許されなかった女性。だが自分の運命から逃げなかった女性。そして単一チーム後は二度とヒョン・ジョンファに会うことがなかった女性。他の世界から来た女性の持つ神秘的なオーラがぺ・ドゥナの持つ本質のものだとすれば、観客に具体的な説明を与えなくてもそのキャラクターに何か事情がありそうだ、秘めた思いがありそうだという印象を与えるのはぺ・ドゥナの演技力の賜物である。予想可能な展開を見せる「ハナ~奇跡の46日間~」で、すべてを知りながらもすべてを受けいれているようなぺ・ドゥナの存在感は、「ハナ~奇跡の46日間~」という映画に切なさに近いものをを与える。「空気人形」のように非現実的な存在感でもなく、ドラマのように感情をより積極的に表現したりもしない。それでもぺ・ドゥナは、歴史的な現実を扱った「ハナ~奇跡の46日間~」でも自分だけの非現実的な魅力を表している。ぺ・ドゥナは「ハナ~奇跡の46日間~」で一般的なストーリーと自分の存在感を調和させる方法を完成させた。現実に立って生きる。しかしよく見ると地面から5cmほど宙に浮いているようだ。そうやって、ぺ・ドゥナは世間の中で自分だけの空気を吸っている。

記者 : カン・ミョンソク、翻訳 : イム・ソヨン