2012年、何故いまどき“王子様”が必要なんだろう

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写真=SBS、MBC

「屋根部屋のプリンス」「キング~Two Hearts」の王子様は、21世紀の財閥

おかしいとは思わないだろうか。最近話題になっている水木ドラマのうち、2つのドラマの主人公が、王子様だ。

一人は仮想の立憲君主国大韓民国の王子様(「キング~Two Hearts」)で、王だった兄の死により王になる予定だ。もう一人はタイムスリップして21世紀韓国へ飛んできた朝鮮の王子様(「屋根部屋のプリンス」)。さらにこの方は、現代韓国でも財閥家の孫で、上限のないブラックカードを使うのに躊躇すること必要のないご身分でいらっしゃる。

これだけではない。大きな異変がない限り今年の最高ヒット作になると思われる「太陽を抱く月」のフォン(キム・スヒョン)が女性たちの心を揺さぶり始めたのが、キム・スヒョンの子役ヨ・ジングが演じる皇太子の時だった。21世紀になっても王子様を求めさせるものは、何だろうか。

写真=MBC
王子様に続いて浮上しているのが、シンデレラである。そうだ。白馬に乗ってやってきた王子様は、貧乏で地味な彼女をどん底から救い出し、王妃にしてくれる存在だ。女性学で最もよく知られている心理的症候群「シンデレラ・コンプレックス」によると、女性はおとぎ話のシンデレラでないにも関わらず、常に白馬の王子様が現れ彼女を栄耀栄華の道へ率いてくれることを夢見続けるという。

進化心理学では、女性が妊娠と出産後に、自分の子供を安心して養育できる条件を持つ男性に、外見に関わらず惹かれるという。室長に続き、財閥でも足りず、いまや王子様まで登場させた韓国のドラマは、女性の本能を最も充実に反映しているとも言えるのだろうか。

あの多かった健気なキャンディたちは、今どこへ

ここで、記憶を巻き戻してみよう。このように無差別的な王子様の帰還の前には、勇敢で健気なキャンディ(漫画キャンディ・キャンディの主人公、お転婆な少女の意味)のサクセスストーリーが人気だった。

「屋根部屋のプリンス」イ・ヒミョン脚本家の前作「トマト」のイ・ハニ(キム・ヒソン)は、貧乏でも明るく元気で、才能まで兼ね備えた靴デザイナーだった。「キング~Two Hearts」ホン・ジナ脚本家の前作「ベートーベン・ウィルス~愛と情熱のシンフォニー~」でも、トゥ・ルミ(イ・ジア)がいなかったら、カン・マエ(キム・ミョンミン)のように一箇所ずつ欠点を持つ人々だけでオーケストラを構成することは出来なかったはずだ。

写真=SBS
「太陽を抱く月」の原作者チョン・ウングォルの作品で、先日KBSで放映された「トキメキ☆成均館スキャンダル」のキム・ユンシク(パク・ミニョン)は、“大物”という別名を得るほど、大胆に男だけの成均館に入っては期待以上の役割を果たした。さらに脚色したチン・スワン脚本家の他の作品「京城スキャンダル」のチャ・ソンジュ(ハン・ゴウン)は、熱血武装闘争の先頭に立っていたではないか。

男からの支えはあったにしても、つい先日までドラマのヒロインに重要なのは、自分の夢を叶えることだった。

純情娘、キャンディの座を奪う

しかし、最近のドラマでは彼女たちが変わった。

「太陽を抱く月」をゆっくり見てみると、ヒロインのホ・ヨヌ(ハン・ガイン)は、本当に同じ作家の作品かと思うほどに受動的だ。気品があって知恵もあるが、運命の嵐の中で彼女はただ流されていくだけだ。大人になり巫女になったが、フォンに会って記憶を取り戻し、再びフォンの女になるまで彼女の意思で行ったことは見当たらない。

「キング~Two Hearts」の怖い特殊部隊教官1号キム・ハンア(ハ・ジウォン)も同じだ。これまでのハ・ジウォンの作品の中で最も美しく愛らしく写っていると評価されるほど、彼女は特殊部隊の教官という職責に似合わず、一人の男への愛、またはわがままに巻き込まれ、ずっと傷ついて苦しんでいる。

写真=MBC
「屋根部屋のプリンス」では、9歳以降家族がいないにも関わらずトラウマのかけらもない、元気で明るいパク・ハ(ハン・ジミン)より、悪役のセナ(チョン・ユミ)の方が時には主人公かのように運命の開拓に積極的である。いつの間にかパク・ハは皇太子一堂に巻き込まれ彼らの世話をして、就職も母のおかげで得ることができ、ああしろと言われればああし、こうしろと言われればこうする、純情娘になってしまった。

能力の最大値をつけた男性主人公

ヒロインがこうなっている反面、室長や財閥も超え王子様に昇格した男性主人公の能力は、最大値に拡張された。一例として「屋根部屋のプリンス」のイ・ガクは、セナの陰謀で屋根部屋から追い出される羽目になったパク・ハの危機を、髪の毛を切る取引一つで一気に解決し、屋根部屋をペントハウスクラスにリニューアルし、お見合いに出向く彼女に新しい洋服をプレゼントする。

写真=MBC

立憲君主国の限界を云々しながらもハンアを勝手気ままに弄ぶ、南朝鮮のお金持ち王子イ・ジェハ(イ・スンギ)も負けていない。さらに「太陽を抱く月」のフォンは、一気にすべての謎を解いてしまい“名探偵フォン”というあだ名まで得たし、臣下の謀反を先に見抜き、逆襲に乗り出してもいる。この方は到底、学問なら学問、武術なら武術、ましてやギャグまで、おできにならないことがない。

この深刻なほど不均衡な男女主人公の能力値の配分は、果たして何を意味しているのだろうか。何故一時はヒロインの夢を叶えることが重要なドラマのモチーフになっていたのに、いまや夢も恋も、すべて王子様の手のひらに握られ裁かれるのを待つ立場となったのだろうか。もしやこれは、個人の努力による夢の実現など不可能だと感じる、この時代を生きる女性たちの心を癒すファンタジーなのだろうか。

最近のドラマで描かれる女性の姿を見ていれば、この間の総選挙で野党の敗北の要因を、突拍子もなく20代の見栄っ張りな女性たちの低い投票率のせいにしていたハプニングがただ事に見えない。

ドラマが人々を誘導するのか、人々が好きなものをドラマが作り出しているのか。果たしてこのドラマたちは、みすぼらしい現実を慰めてくれるのか、悲惨な現実を忘れさせてくれる媚薬となっているのか、首を傾げるしかない。

記者 : イ・ジョンヒ