カン・ジファンがおすすめする「複雑な頭の中をクールダウンさせる音楽」
10asia |
「作品が決まったら他のことは何もできません。台本をもらって撮影日が決まったら、眠れなくなるほどストレスを受けるんです」
MBC「黄金漁場-ヒザ打ち導師」で相談に乗ってもらった方がいいのではないか、と思うほど心配になるその人物は、俳優カン・ジファンである。一人の俳優として、演技に関して悩み、ストレスを受けることは当然に思えるかもしれない。しかし、カン・ジファンに対してストレスという言葉は、一見すると何だか似合わない気もする。それは、最新作であるコメディ映画「7級公務員」で観客を大いに笑わせた演技もそうだが、カン・ジファンは台本通りの決まった演技より、彼ならではの繊細な解釈を加えた見事な演技を常に見せてくれてたからである。
例えば、「快刀ホン・ギルドン」ではホン・ギルドンに扮し、“ふざける”という言葉の見本とも言える演技を見せながらも、胸の中に抱いた痛みを絶妙に表現した。そして、「京城スキャンダル」では多少傲慢に自分勝手に生きながらも、少しずつ祖国の現実に目を向け成長していくソヌ・ワンに扮し、まるでテレビから出てきそうなリアルな人物を表現して見せた。そしてそれは、台本にはないアドリブで演技の細かいところまできちんと表現するカン・ジファンであったからこそ可能なことであった。それに、自分のファンカフェで“教主”として活動し、布教活動やマルチ商法の加入活動を励ます彼の姿まで見たら、ストレスに関するカン・ジファンの吐露は本当に彼に似合わないと思ってしまう。
しかし、そんな演技での彼のアドリブが機知に頼ったものではなく、“先にシナリオを考えておく”という前もっての徹底的な作業であることを知れば、彼が不眠症や頭痛に悩まされているのを理解するのも、そう難しいことではない。実際、彼が映画で新人演技賞を受賞したいと思って、悩んだ末に選んだ作品が「映画は映画だ」だった。そして、彼はその作品で韓国の主な映画祭の新人賞を総なめにした。彼に与えられた評価は、そのような先を読み取る能力や、悩むことがあったからこそ得られたものであった。さらに重要なのは、彼が俳優としての意欲を隠さないところだ。その意欲とは、「つじつまを合わせるのは大変だけど、極悪ではあるが少しの同情の余地を感じさせる人物を演じたい」という思いである。言わば彼のストレスとは、自分の職業に愛情を感じて演技に励む俳優の、避けられない痛みとも言えるものである。
今回はそんな彼に、その複雑な頭の中をクールダウンさせる時に聴く音楽を勧めてもらった。以下の曲は、仕事に関する悩みで入り乱れたカン・ジファンの頭と心を、もう一度ゼロに戻してくれる、一種の“アスピリン”のような曲たちである。
1. チョ・ハムン 「チョ・ハムン1集」
「たぶん最近の子たちの中でチョ・ハムンさんの名前を知っている人はあまりいないと思いますが、曲を聴いたら誰もが『あ!』と思い当たるはずです」
カン・ジファンが選んだ1曲目は80年代に「大学歌謡祭」(MBC)でデビューした歌手チョ・ハムンの、1枚目のアルバムに収録されている「この夜をもう一度」である。彼の言う通り、ソ・チャンフィやV-oneなど後輩ミュージシャンがリメイクしたおかげで、優しい顔のチョ・ハムンが頻繁にテレビに姿を見せていた時期を経験していない世代にも、なじみのある曲である。彼の曲は世代を超えていて、激情的ではないが心に切々と訴えかえるメロディーやゆったりとしたテンポに、頭だけでなく感情まで浄化されるような気分になる。面白いのは、この普遍的な感情がカン・ジファンにより韓国外でも通じたということだ。「7月に日本で行われたファンミーティングでギターの演奏に合わせてこの曲を歌いましたが、反応が本当に良かったんです。普段からよく歌う曲ですが、ファンミーティングのために練習していたら、もっと好きになりました」
2.「Cinema Holiday」
映画「ラストエンペラー」を通して世界的な映画音楽の作曲家となった坂本龍一が、初めて音楽を手がけた映画は「戦場のメリークリスマス」だった。その映画の原題と同じタイトルの曲である「Merry Christmas Mr. Lawrence」は、坂本龍一ならではの東西の情緒が共存している、ニューエイジ風の音楽である。シンセサイザーの夢幻的な響きが気持ちを静める、ニューエイジ独特の雰囲気から、カン・ジファンも頭を冷やす曲として「Merry Christmas Mr. Lawrence」を勧めた。
「一人でいる時に聴きたくなる音楽です。いくつかのシナリオを読んで、頭の中が複雑になっている時に聴くと、そのすべての雑然とした考えや気持ちが静まるんです。それはたぶん、旋律に喜怒哀楽のすべての感情が含まれているからだと思います」
3. 展覧会 「Exhibition 2」
「キム・ドンリュルさんの中低音は魅力的です。彼の声を通したら、恋愛話も別れ話もさらに切なく感じられるからです。特に展覧会の2枚目のアルバムはまるで、思い出がよみがえるタイムマシンのようです。聴くと、記憶の中に残っている感情がすべてそのまま思い浮かぶからです」
こんな展覧会のアルバムの中でカン・ジファンが勧める曲は、展覧会の1作目のアルバムに収録された「記憶の習作」とともに、たまにカラオケで歌う「酔中真談(チェジュンジンダム)」である。酒の力を借りて好きな女の子に告白するこの曲からは、激情的な愛の言葉を見つけることはできないが、そのため逆に、曲の流れに自然に心を委ねることができる。キム・ドンリュル独特のジャジーな雰囲気が生きている質の高い、人々から非常に高い人気を集める曲である。
4. Stevie Wonder 「Songs In The Key Of Life」
カン・ジファンが勧める4曲目はStevie Wonderの「Isn't She Lovely」である。この曲は以前「無限に挑戦」(MBC)のコンサートでチョン・ヒョンドンが歌ってから、韓国語読みの「イズンシュ ラブリ」というタイトルの方で人々に親しまれることが多くなっている。先天性の視覚障害を持つStevie Wonderが、娘の顔を見るために視力回復手術を受けたが結局失敗して、その切ない気持ちと娘に対する愛情を盛り込んで歌った曲である。“彼女のように愛くるしい命を持つことができるなんて、考えたこともなかった”という歌詞を通して、彼の深い父性愛を感じることができる。
「目が見えなくて、優れた聴覚で最高の歌手になったためか、Stevie Wonderの曲は何だか温かく感じるんです。誰かにアルバムをプレゼントするとき、『Isn't She Lovely』が収録された『Songs In The Key Of Life』をあげたら、きっと喜んでもらえるプレゼントになると思います」
5. Glen Hansard、Marketa Irglova 「once ダブリンの街角で OST」
一時、アコースティック・ギターを弾ける人々は周りの人々から映画「once ダブリンの街角で」で流れる「Falling Slowly」の前奏を弾けるかという質問に苦しめられた。それは、この映画が特に韓国でものすごい人気を集め、Glen Hansardが聴かせてくれた情緒的で清らかなギターの演奏はそれほど印象的であり、まるで映画と同じように人々を癒してくれるものであったからだ。カン・ジファンも映画を見てこの曲を演奏したくなった数多くの男の中の一人であった。
「僕が思うには、映画と音楽が最高の相性を見せてくれたアルバムだと思います。特に『Falling Slowly』が好きで、しばらくの間弾かなかったギターを、久しぶりに引き出して演奏してみたくらいです。男が恋人に聴かせたい曲1位になったという話も聞きましたが、たぶん皆僕と同じ気持ちを持っているんじゃないでしょうか」
「ヒザ打ち導師」の解決策は、依頼人の悩みが逆に依頼人自身を現在の位置まで上らせた原動力であると悟らせてくれるものだ。「ストレスが悩み」というカン・ジファンへの処方も恐らく同じようなものであるはずだ。最近、日本でMnet Japanとリアルドキュメンタリー「カン・ジファンのある日、何処かで…」を撮影しながらも、浮かび続けるアイデアやコンセプトで“頭の中が複雑だった”彼にとってストレスとは、情熱と意欲の産物を意味するのである。
ファンミーティングと撮影を終えて日本から帰ってきた彼は、しばらくの間読めなかったシナリオを読んで新しいキャラクターについて悩むだろう。これからも受けるストレスは少なくないかもしれない。しかし、カン・ジファンが作り出す新しいタイプのキャラクターは、彼が悩んだり眠れなかったりした苦悩の分だけ鮮やかなディテールを持ち、人々の前に姿を現すこととなるのだろう。
MBC「黄金漁場-ヒザ打ち導師」で相談に乗ってもらった方がいいのではないか、と思うほど心配になるその人物は、俳優カン・ジファンである。一人の俳優として、演技に関して悩み、ストレスを受けることは当然に思えるかもしれない。しかし、カン・ジファンに対してストレスという言葉は、一見すると何だか似合わない気もする。それは、最新作であるコメディ映画「7級公務員」で観客を大いに笑わせた演技もそうだが、カン・ジファンは台本通りの決まった演技より、彼ならではの繊細な解釈を加えた見事な演技を常に見せてくれてたからである。
例えば、「快刀ホン・ギルドン」ではホン・ギルドンに扮し、“ふざける”という言葉の見本とも言える演技を見せながらも、胸の中に抱いた痛みを絶妙に表現した。そして、「京城スキャンダル」では多少傲慢に自分勝手に生きながらも、少しずつ祖国の現実に目を向け成長していくソヌ・ワンに扮し、まるでテレビから出てきそうなリアルな人物を表現して見せた。そしてそれは、台本にはないアドリブで演技の細かいところまできちんと表現するカン・ジファンであったからこそ可能なことであった。それに、自分のファンカフェで“教主”として活動し、布教活動やマルチ商法の加入活動を励ます彼の姿まで見たら、ストレスに関するカン・ジファンの吐露は本当に彼に似合わないと思ってしまう。
しかし、そんな演技での彼のアドリブが機知に頼ったものではなく、“先にシナリオを考えておく”という前もっての徹底的な作業であることを知れば、彼が不眠症や頭痛に悩まされているのを理解するのも、そう難しいことではない。実際、彼が映画で新人演技賞を受賞したいと思って、悩んだ末に選んだ作品が「映画は映画だ」だった。そして、彼はその作品で韓国の主な映画祭の新人賞を総なめにした。彼に与えられた評価は、そのような先を読み取る能力や、悩むことがあったからこそ得られたものであった。さらに重要なのは、彼が俳優としての意欲を隠さないところだ。その意欲とは、「つじつまを合わせるのは大変だけど、極悪ではあるが少しの同情の余地を感じさせる人物を演じたい」という思いである。言わば彼のストレスとは、自分の職業に愛情を感じて演技に励む俳優の、避けられない痛みとも言えるものである。
今回はそんな彼に、その複雑な頭の中をクールダウンさせる時に聴く音楽を勧めてもらった。以下の曲は、仕事に関する悩みで入り乱れたカン・ジファンの頭と心を、もう一度ゼロに戻してくれる、一種の“アスピリン”のような曲たちである。
1. チョ・ハムン 「チョ・ハムン1集」
「たぶん最近の子たちの中でチョ・ハムンさんの名前を知っている人はあまりいないと思いますが、曲を聴いたら誰もが『あ!』と思い当たるはずです」
カン・ジファンが選んだ1曲目は80年代に「大学歌謡祭」(MBC)でデビューした歌手チョ・ハムンの、1枚目のアルバムに収録されている「この夜をもう一度」である。彼の言う通り、ソ・チャンフィやV-oneなど後輩ミュージシャンがリメイクしたおかげで、優しい顔のチョ・ハムンが頻繁にテレビに姿を見せていた時期を経験していない世代にも、なじみのある曲である。彼の曲は世代を超えていて、激情的ではないが心に切々と訴えかえるメロディーやゆったりとしたテンポに、頭だけでなく感情まで浄化されるような気分になる。面白いのは、この普遍的な感情がカン・ジファンにより韓国外でも通じたということだ。「7月に日本で行われたファンミーティングでギターの演奏に合わせてこの曲を歌いましたが、反応が本当に良かったんです。普段からよく歌う曲ですが、ファンミーティングのために練習していたら、もっと好きになりました」
2.「Cinema Holiday」
映画「ラストエンペラー」を通して世界的な映画音楽の作曲家となった坂本龍一が、初めて音楽を手がけた映画は「戦場のメリークリスマス」だった。その映画の原題と同じタイトルの曲である「Merry Christmas Mr. Lawrence」は、坂本龍一ならではの東西の情緒が共存している、ニューエイジ風の音楽である。シンセサイザーの夢幻的な響きが気持ちを静める、ニューエイジ独特の雰囲気から、カン・ジファンも頭を冷やす曲として「Merry Christmas Mr. Lawrence」を勧めた。
「一人でいる時に聴きたくなる音楽です。いくつかのシナリオを読んで、頭の中が複雑になっている時に聴くと、そのすべての雑然とした考えや気持ちが静まるんです。それはたぶん、旋律に喜怒哀楽のすべての感情が含まれているからだと思います」
3. 展覧会 「Exhibition 2」
「キム・ドンリュルさんの中低音は魅力的です。彼の声を通したら、恋愛話も別れ話もさらに切なく感じられるからです。特に展覧会の2枚目のアルバムはまるで、思い出がよみがえるタイムマシンのようです。聴くと、記憶の中に残っている感情がすべてそのまま思い浮かぶからです」
こんな展覧会のアルバムの中でカン・ジファンが勧める曲は、展覧会の1作目のアルバムに収録された「記憶の習作」とともに、たまにカラオケで歌う「酔中真談(チェジュンジンダム)」である。酒の力を借りて好きな女の子に告白するこの曲からは、激情的な愛の言葉を見つけることはできないが、そのため逆に、曲の流れに自然に心を委ねることができる。キム・ドンリュル独特のジャジーな雰囲気が生きている質の高い、人々から非常に高い人気を集める曲である。
4. Stevie Wonder 「Songs In The Key Of Life」
カン・ジファンが勧める4曲目はStevie Wonderの「Isn't She Lovely」である。この曲は以前「無限に挑戦」(MBC)のコンサートでチョン・ヒョンドンが歌ってから、韓国語読みの「イズンシュ ラブリ」というタイトルの方で人々に親しまれることが多くなっている。先天性の視覚障害を持つStevie Wonderが、娘の顔を見るために視力回復手術を受けたが結局失敗して、その切ない気持ちと娘に対する愛情を盛り込んで歌った曲である。“彼女のように愛くるしい命を持つことができるなんて、考えたこともなかった”という歌詞を通して、彼の深い父性愛を感じることができる。
「目が見えなくて、優れた聴覚で最高の歌手になったためか、Stevie Wonderの曲は何だか温かく感じるんです。誰かにアルバムをプレゼントするとき、『Isn't She Lovely』が収録された『Songs In The Key Of Life』をあげたら、きっと喜んでもらえるプレゼントになると思います」
5. Glen Hansard、Marketa Irglova 「once ダブリンの街角で OST」
一時、アコースティック・ギターを弾ける人々は周りの人々から映画「once ダブリンの街角で」で流れる「Falling Slowly」の前奏を弾けるかという質問に苦しめられた。それは、この映画が特に韓国でものすごい人気を集め、Glen Hansardが聴かせてくれた情緒的で清らかなギターの演奏はそれほど印象的であり、まるで映画と同じように人々を癒してくれるものであったからだ。カン・ジファンも映画を見てこの曲を演奏したくなった数多くの男の中の一人であった。
「僕が思うには、映画と音楽が最高の相性を見せてくれたアルバムだと思います。特に『Falling Slowly』が好きで、しばらくの間弾かなかったギターを、久しぶりに引き出して演奏してみたくらいです。男が恋人に聴かせたい曲1位になったという話も聞きましたが、たぶん皆僕と同じ気持ちを持っているんじゃないでしょうか」
「ヒザ打ち導師」の解決策は、依頼人の悩みが逆に依頼人自身を現在の位置まで上らせた原動力であると悟らせてくれるものだ。「ストレスが悩み」というカン・ジファンへの処方も恐らく同じようなものであるはずだ。最近、日本でMnet Japanとリアルドキュメンタリー「カン・ジファンのある日、何処かで…」を撮影しながらも、浮かび続けるアイデアやコンセプトで“頭の中が複雑だった”彼にとってストレスとは、情熱と意欲の産物を意味するのである。
ファンミーティングと撮影を終えて日本から帰ってきた彼は、しばらくの間読めなかったシナリオを読んで新しいキャラクターについて悩むだろう。これからも受けるストレスは少なくないかもしれない。しかし、カン・ジファンが作り出す新しいタイプのキャラクターは、彼が悩んだり眠れなかったりした苦悩の分だけ鮮やかなディテールを持ち、人々の前に姿を現すこととなるのだろう。
記者 : ウィ・グヌ、写真 : イ・ウォヌ、翻訳 : ナ・ウンジョン